経営破たんした企業の中には、その後、粉飾決算や社長の資金私的流用などが明るみになり、それが原因で刑事事件にまで発展する事例が多々あります。このようなケースでは、どのような罪に問われて刑事事件になるのでしょうか。具体例を交えて解説していきます。
■経営破たんした企業に「粉飾決算」と「私的流用」の疑いが
2016年3月に約108億円の負債を抱えて経営破たんした大阪市北区にある輸入食品販売会社が、約15年間にわたって粉飾決算を繰り返していた疑いがあると先日も新聞で報道されました。
この報道によれば、経営が悪化したのにそれを隠し、帳簿上は利益が上がっているように操作したということです。このように帳簿を不正に操作することを粉飾決算と言います。
そして、粉飾決算を示して金融機関から多額の追加融資を受け、その一部を社長が私的に流用したということです。
■粉飾決算の上で追加融資すると「詐欺罪」に該当
仮に経営が悪化したことを帳簿に正確に記せば、金融機関が追加融資をすることは無かったはずです。その意味では、金融機関に嘘の情報を与え、本来借りることのできないお金を借りたということで、詐欺罪(刑法246条)に該当することになります。
詐欺罪として立件されると10年以下の懲役に処せられることになります。
また、お金を借りていないとしても、粉飾決算は処罰されます。その場合、株式が公開されているか否かで罪の種類も変わります。
株式が公開されていない会社が、粉飾決算をすると、計算書類等虚偽記載罪(会社法第976条)となり、100万円以下の過料に処せられます。
株式が公開されている会社だと、有価証券報告書虚偽記載罪(金融商品取引法第197条及び第207条)となり、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金になります。
株式が公開されている上場企業だと、粉飾決算を信じて高い金額で株式を買ったりして損害を被る被害者が増えるため、このように重く処罰されることとなるのです。
■会社資金の私的流用は「横領罪」あるいは「背任罪」に
会社のお金を社長が私的に流用すると、これも処罰されます。会社のお金は、社長のものではなく、株主のものだからです。流用の形態によって、横領罪(刑法252条)あるいは背任罪(刑法247条)となります。それぞれ、5年以下の懲役に処せられます。
横領と背任の区別は非常に難しいので、ここでは説明を省略しますが、悪質な流用だと、業務上横領罪や特別背任罪となり、10年以下の懲役に処せられることもあります。
難しい法律を知らなくても、要は、会社経営にあたっては嘘をついてはいけないと言うことです。嘘の帳簿をつけると粉飾決算となり、刑事事件になる可能性があるということです。
また、会社の金は社長の金ではないと言うことです。会社の利益のために使うのであれば何ら問題はありませんが、私的な利益のために使うと、横領罪や背任罪となり処罰されるということです。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)
*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)
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