2016年8月の内閣改造で沖縄・北方担当相に抜擢された鶴保庸介大臣が、18歳年下の元妻に対してモラハラ行為を行っていたという疑惑が週刊誌で報道されました。特に、婚姻時にはすでに離婚届を元妻に書かせることを強要しており、結婚後に元妻が出産するとその2カ月後には離婚届が提出されていた、という内容が注目されています。
このように、近年よく耳にするようになったモラハラですが、厳密には、法律上明確な定義があるわけではありません。
家庭内や職場に限らず、他人に対するモラハラを理由に損害賠償が認められた裁判例もあるにはありますが、これも正確にいえば、モラハラだから損害賠償をする義務がある、ということではないのです。
■モラハラの定義は法的には実はあいまい
法律上、基本的に他人に損害賠償請求できるのは、契約関係がある場合の債務不履行か、契約関係がない場合の不法行為、のどちらかに分類されます。
例えば、家庭問題でいえば、離婚に伴う慰謝料は突き詰めれば不法行為の慰謝料ですし(財産分与の側面もあります)、婚約破棄の慰謝料も婚姻予約契約の債務不履行というのが法律上の根拠です。
家庭内か職場かを問わず、モラハラを理由に損害賠償が認められるのは、それがモラハラだからというよりは、端的に、相手方の心身や財産に損害を加えたことによる不法行為が根拠となります。
したがって、どのようなことをしたらモラハラなのか、あるいはどこまでいったらモラハラなのか、という線引きが法律上あるわけではありません。
法的にモラハラと考えられるケースとしては、それが相手の平穏な生活を害し受忍限度を超えるような違法行為があったか、財産権や心身に対する加害行為があったとまで評価できるかが判断基準とされます。
一概にモラハラといっても、裁判上では、当該事案における全ての事情を総合考慮して不法行為の成立が認められるかどうかを判断することになります。
■家庭内でのモラハラは離婚原因や離婚慰謝料に直結
家庭内のモラハラとされる具体的な個々の行為は、法律上は、基本的には離婚原因や離婚慰謝料を構成する事情として、考慮されることになります。
例えば、相手の精神が病むほどの暴言や身体的な軟禁行為は、モラハラというかどうかに関係なく、婚姻を継続し難い離婚事由、離婚慰謝料の根拠となります。
鶴保庸介大臣のモラハラ問題でも取り上げられているように、婚姻時に離婚届を相手に書かせておくことも、婚姻を継続し難い離婚事由、離婚時の慰謝料を構成する事実となりえます。
さらに、婚姻時に強制的に書かせた離婚届は、たとえ署名押印があっても、真実の離婚意思を欠き、相手に一方的に提出されても離婚は無効となる可能性が高いでしょう。
セクハラ、パワハラ、モラハラ、マタハラ、アカハラなど、一般に新聞やテレビなどで悪質な行為を指す造語がつくられることがありますが、法律上の概念にはないことが多いです。
法律上は端的に不法行為かどうかが問題となり、実際の個々の行為の評価が重要であって、モラハラと呼ぶかどうかということ自体は法的にはさほど意味がありません。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
*Rina / PIXTA(ピクスタ)