●活動に違法性は?
まず刑事上犯罪にはなるかどうかですが、被害者や被害者家族等の実名を出さず、また社会的評価を下げるような事実を記載しない限り、名誉棄損等の犯罪には該当しません。
ほかの犯罪にも該当しないものと思われ、したがって元少年Aに刑事上の犯罪は成立しないでしょう。
●民事でも不法行為は成立しない
次に民事上の不法行為が成立するかですが、これも刑事と同様、名誉棄損等の表現がない限り不法行為は成立せず、元少年Aに対する慰謝料請求等も困難であると思われます。
出版の差止めという手段もありますが、差止めは出版されることにより遺族に回復が困難な損害が発生する可能性が高い場合にのみ認められます。
ですので、そもそも事件のことを記載していなければ遺族に損害発生はなく、差止めは認められませんし、仮に事件のことを記載したとしても上述のように社会的評価を下げる事実が記載されない限り差止めは認められないでしょう。
つまり、元少年Aの活動は合法であり、法律上元少年Aの活動を止めることはできないということになります。
●印税等の差し押さえは可能かもしれない
かろうじて遺族が抵抗できるとしたら、元少年Aに対して児童殺害に伴う損害賠償請求訴訟をしており、元少年Aに対してすでに裁判所から賠償命令が出されているのであれば遺族が元少年Aに支払われる印税等の報酬の差し押さえをすることができる程度です。
過去の犯罪歴を使って表現活動をすることは許されないという意見がある一方、法律上の手続きで罪を償った後であれば表現活動は自由ではないか、前科がある人間は一切表現活動をしてはいけないのかという意見もあり、加害者の表現活動の是非については一朝一夕に解決する問題ではありません。
今回の事件を機に、今後深い議論が広がっていくことを期待したいと思います。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)
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