ニュースなどでたまに耳にする「処分保留」という言葉。「○○容疑者が処分保留で釈放されました。」という使われ方が多いと思いますが、具体的にはどういう意味なのでしょうか。
逮捕・勾留という被疑者の身柄拘束とも絡むお話ですので、その辺も交えながらお話しいたします。
●そもそも逮捕・勾留とは何か
まず、被疑者として逮捕されるのは簡単に説明すると、(1)犯罪を行ったと疑う相当な理由があり、(2)逮捕の必要性(罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれなど)がある場合です。逮捕して被疑者を警察署などに留め置いておく期間は最大で72時間です。
それ以上、被疑者を留め置いておく場合、検察官は裁判官に勾留を求めて、それが認められれば、ひとまず10日間、被疑者の身柄を拘束できるということになります。
勾留をするためには、被疑者が犯罪を行ったと疑う相当な理由があり、かつ、(1)被疑者に定まった住所がない、(2)罪証隠滅を疑う相当な理由がある、(3)被疑者が逃亡すると疑う相当な理由がある、といった3つの要件のうち少なくとも1つを満たす必要があります。
このうち、(1)は比較的分かりやすいものですが、(2)や(3)といった要件はあくまでもイチ弁護士という立場からの個人的な感想ですが、「ホンマにそうやろか……?」という場合でも意外とあっさり認められてしまいます。
検察官が請求した勾留について、データ上は、裁判官がこれを却下するなんてことは、まずほとんど無いと言っても過言ではありません。ただ、近年は却下される割合が若干上昇傾向にあるようです。勾留は、最初は10日間、延長があった場合は原則最大20日間続くことになります。
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●起訴・不起訴とは?
この勾留の期間に検察官は、証拠を集めて被疑者を起訴(裁判所に対して審判を求める意思表示)するかどうかにつき検討します。
そして、勾留の満了日までに被疑者を起訴するのか、不起訴にするのかを決断しようと試みます。有罪に問うための材料が乏しかったり(嫌疑不十分)、そもそも罪には問えないと判断すれば(嫌疑なし)、不起訴になります。
また、有罪にできると判断しても、被疑者の状況(初犯かどうか、罪の重さ、示談の有無等)を鑑みて不起訴とする場合もあります(起訴猶予)。
いずれにしても、不起訴の判断がされた場合、被疑者はその勾留された容疑では裁判にはかけられないということになります。拘束されている身柄もその件については釈放されるということになります。
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●処分保留の意味
処分保留は、まさにこの検察官が起訴にするか不起訴にするかという判断をするに際し、「まだどちらとも判断できない」という場合などに、一旦処分は保留して起訴処分も不起訴処分もしない、というケースです。
また、実務上は被疑者に別件で再逮捕が予定されているケースで、処分保留にしておいて、別件での再逮捕、勾留を経て最終的にまとめて起訴するといったケースも有り得ます。処分保留となった場合、先ほどお話しした勾留の期間は満了しますので、必然的に勾留された事件につき被疑者の身柄は釈放されるということになります。
ニュースの「処分保留で釈放」という言葉の意味は、逮捕勾留されたけど、勾留の満了日までに検察官が起訴・不起訴の判断を保留したがゆえに、勾留の期限が過ぎたことで被疑者が釈放された、ということになります。
●処分保留が持つニュアンスは2パターン
ちなみに、こういった場合のニュースのニュアンスとしては、2パターンあるように思います。
一つは、「身柄拘束までしておいて起訴まで持っていけないなんて不当な逮捕だったんじゃないの?」というもので、もう一つは「えっ!? この事件、本当に起訴できないの?きちんと捜査したんですか?」というものです。
ニュースで取り上げられている事件がどっちのニュアンスで報道されているのか、という視点でニュースを見てみてはいかがでしょうか。
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*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)