■難民の定義
難民とは、難民条約の規定により定義された難民を意味し、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないか又はそれを望まない者、とされています。
長い定義ですが、要するに、国籍がある母国で政治的理由や人種・民族差別により迫害されるおそれがある者であることが必要です。
したがって、単に母国の少数派であるとか、就労、出稼ぎ目的のケースは、難民には該当しません。
■日本だけ難民認定の要件が厳しいわけではない
日本の難民認定率は、2014年でわずか0.2%ほどで、5,000人以上が申請して11人しか許可が下りていない状況だそうです。昨年だけ認定率が低いわけではなく、毎年2桁に届くか届かないくらいの認定数のようです。
ただし、よく誤解されているようですが、実は、日本の難民認定の要件が世界と大きく異なっていて特に厳しい、というわけではありません。先ほど説明したように、難民認定の要件・定義自体は、難民条約で規定されていますので、基本的には各国同じです。
ではどうして、日本の難民認定が厳しいといわれるかというと、同じ難民の定義を使用していても、その審査・認定が厳しい運用となっていることが原因です。
これは、どの法律でも起こりうることですが、同じ条文でも、その認定の運用次第では、大きく結果が異なることはよくあります。
これに対して、特に北欧諸国では、難民認定の審査が比較的緩く行われており、難民認定率も難民認定数も、日本よりかなり高い数字となっています。
日本で申請した弟は難民認定されなかったのに、母国で同じ家庭事情の兄はデンマークで難民認定されている、といった事案も珍しくありません。
■出稼ぎ就労目的の難民申請も多発している
日本の難民認定率は極端に低いですが、実は、出稼ぎ就労目的で来日しており、どう話を聞いても明らかに難民に該当しない人が難民認定しているケースもかなり多いです。そのような者でも、認定率の分母には含まれますので、認定率は低くなります。
難民認定は何度でも申請でき、かつ難民認定審査中は就労可能だったため、過去には、就労目的での難民認定を繰り返したとして、指南役のブローカーが摘発される事例もありました。
移民国家ではない日本では、特に永住権や国籍取得が極めて困難である事情もあり、本来、難民とは程遠い出稼ぎ就労目的の者による大量の難民認定審査が請求されています。
そして、これに対応する入管当局としては、難民に該当し得ない大量の案件を審査するため、どうしても無意識のうちに審査が厳しくなってしまう面もあるでしょう。
その中でも、真に難民として母国で迫害のおそれがある者の救済が抜け落ちないように、審査の手続きの工夫がなお求められます。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
*Nori / PIXTA(ピクスタ)
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