結論から言うと、このようなことは許されない可能性が高いです。
■賃金全額払いの原則
勤務先は、原則として給料の「全額」を支払わなければいけません(労働基準法24条1項本文)。賃金全額払いの原則といいます。
賃金全額払いの原則は、労働者に給料を確実に受領させ、労働者の日常生活に不安がないようにするための原則です。
例外は、法令で控除が認められている場合(同項ただし書き。所得税や社会保険料の源泉徴収が典型例)、労使協定の定めで控除を認めた場合(同項ただし書き)、過払いとなった賃金の精算のための調整的相殺の場合(判例)、合意に基づく相殺の場合(判例)です。
したがって、労働者が仕事でミスしたからといって勝手に給料天引きするというようなことは賃料全額払いの原則に反し許されません。
給料天引きは無効ですので、労働者としては天引きされた分について支払ってくださいと勤務先に請求することができます。
労働者が請求しても支払ってもらえないような場合、勤務先に対して裁判を行ったり、労働基準監督署に駆け込んだりすることも考えられます。
■仕事でのミスが懲戒事由にあたるとして減給された場合
懲戒とは、職場の秩序を乱した者に対し、職場の秩序を維持するために行う制裁です。
勤務先は、仕事上のミスが懲戒事由に当たるとして減給処分を行うことがあるかも知れません。
しかし、懲戒処分が有効となるためには、就業規則に定められている懲戒事由に該当し、誰もが懲戒が相当と認めるような理由があり、懲戒の具体的処分が重すぎない相当なものであることが必要です。
勤務先は、就業規則に懲戒事由として「会社に多大な損害を与えたとき」とか「勤務成績が著しく不良のとき」のように定め、こうした事由に当たるから減給すると言ってくるかもしれません。
しかし、人間誰もがミスをしてもおかしくないわけですから、仕事上のミスで懲戒が相当と認められる場合は限られてくるでしょう。
そもそも懲戒は職場の秩序を維持するための手段ですが、誰でもやりかねないミスに制裁を加えても職場の秩序は保たれないでしょう。
また、懲戒処分として減給するのが相当と認められる場合でも限界があります。
減給については、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはいけない、総額が一賃金支払期の賃金の総額の10分の1を超えてはいけないこととされています。
したがって、労働者としては、そもそも懲戒事由に当たらないことや、懲戒事由に当たるとしても処分が重すぎることを主張し、天引きされた分について支払うよう勤務先に請求することができます。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)
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