●なぜ「親告罪」は存在する?
親告罪として規定されている犯罪類型では、たとえ犯罪が成立する場合であっても、被害者の告訴がなければ、公訴提起(起訴)できず、刑事裁判にかけられません。
親告罪は、性犯罪であれば、被害者の意向に反して刑事裁判の法廷で事件が明るみに出る苦しみを回避し、被害者の精神的苦痛(2次被害)を防止することを目的にしています。
したがって、告訴がなければ、犯人は、犯罪成立が明らかであっても、また警察で身元を特定して逮捕できる状態であっても、事実上、刑事罰などは課せられず、お咎めなしの結果となります。
一見不合理のようですが、大きなショックを受けた被害者の意向尊重のために親告罪として規定されています。
同じように、名誉棄損罪や侮辱罪も、被害者の意向に反して刑事裁判として公開されることにより、かえって名誉が傷つけられる事態を避けるために、親告罪とされています。
他方、器物損壊罪は、軽微な犯罪類型であることから、親告罪に指定されています。
■著作権侵害の捜査が容易になることは間違いない
著作権が親告罪となっているのは、著作権者からの告訴によって捜査を開始するのが効率的であって、著作権者の意向に反して、立件すべきではないとの政策的理由からです。
したがって、これまでは、著作権侵害の行為があっても、著作権者が告訴しない限りは、立件されて刑事罰を課されることはありませんでした。
ところが、著作権侵害が「非親告罪化」された場合、著作権者の意向とは無関係に、客観的にみて著作権侵害といえる行為を、警察が取り締まることができるようになります。
警察当局にとって、捜査が容易になることは間違いありません。
マンガを2次利用した同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」なども、客観的に著作権侵害に該当すれば、告訴がなくても取り締まりが可能となります。
■実際にどこまで厳しく取り締まるかは未知数
著作権侵害が「非親告罪化」されたとしても、著作権侵害の犯罪が成立する要件自体はこれまでと変わりありません。
つまり、これまで、厳密にいうと著作権侵害という犯罪が成立するけど、告訴がなかったために見逃されていた行為が、警察当局の判断次第で、取り締まり対象になるということです。
ただし、実際に、どこまで厳しく取り締まるかは未知数であり、外国観光客にも人気?の一大イベントとなっている「コミックマーケット(コミケ)」を大々的に取り締まるような事態になる可能性は低いかもしれません。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
*ヨロズナ / PIXTA(ピクスタ)
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