満員電車で駅員に押し込まれて骨折・・・こんな時、損害賠償請求できる?

●駅員に「過失」があるのか?

この場合、主に問題となるのは「駅員さんに過失が認められるか」という点だと思います(駅員が奥の乗客を負傷させるためにわざと入り口付近の乗客を押し込んだわけではないという前提です)。

その「過失」が認められるかどうかは、具体的な状況によって変わってきますので、一概には答えにくいのです。

一般的な用語として「過失」といえば、「不注意」、「ついうっかり」というイメージですが、法律的な過失の話は意外と難しいところがあります。法的な意味で過失とは、小難しい言い回しをすると、「結果予見義務違反」と「結果回避義務違反」という2つの複合形とする見解が有力です。

前者は、「結果を予見すべきであるのにしなかった」ということで、後者は、「結果を回避が可能であったのにしなかった」ということです。ここでいう「結果」とは「乗客の負傷」と考えて下さい。

 

●乗車中のお客さんが負傷する結果を推測できますか?

冒頭のケースで、まず奥に乗車中のお客さんが負傷する結果を予見(推測)できるかどうかという点を検討してみます。

この場合、仮に結果が発生する可能性が「0.0001%」でもあれば結果予見義務違反が認められるとすれば、過失責任というよりはむしろ結果責任を負わせることになって、常識的に妥当な結論とはなりません。

法的には、「通常の能力を持つ人からみて予見が出来たかどうか」という視点で考える必要があります。ほら、難しくなってきましたね……。

「通常の能力」ってどのくらいなのか、そもそもそこらへんが分かりにくいですね。この場合は、駅員という職責を担っている人の水準的な能力と考えるべきでしょう。それでも正直具体的には分かりにくいかと思います。

そこの問題はクリアになったとして、次は結果回避義務違反になるかどうかです。この点は、結果(乗客の負傷)が予見できることが前提である以上、押し込むことをやめるべきですので、「結果を避けることができなかった」とは言いにくい場面であると思います。

 

●証拠を出すのはかなり難しい

ここから先は、裁判で認められるかどうか、という視点も交えて考えてみます。

裁判で損害賠償請求を認めてもらうためには、原告となる乗客が駅員さんに上記のポイントを踏まえて過失があったことを証拠によって立証しなければいけません。これが実際は非常に難しいという可能性があります。

過失の立証は、過失を基礎づける客観的な事実を一つずつ証明していく必要があります。例えば、車両の広さ、乗客の数、乗客の立ち位置、荷物の量、押された状況、圧力の程度……、そういった事実を証拠により立証して、その結果、裁判官の評価として「駅員さんに過失があったかなかったか」という結論が導き出されるわけです。

そのような状況で写真を撮ることは考えにくいですし、他の乗客に証人になって欲しいと確保しておくこともなかなかハードルは高そうです。

そう考えると、こういったケースは、立証という点でも難しい面がありそうです。しかし、だからといってどのようなケースも泣き寝入りすべきというわけではありません。お悩みの方は弁護士に相談することをお勧めいたします。

 

*著者:弁護士 河野晃 (水田法律相談所。兵庫県姫路市にて活動しております。弁護士生活5年目を迎えた若手(のつもり)弁護士です。弁護士というと敷居が高いと思われがちな職種ですが、お気軽にご相談していただけるような存在になりたいと思っています)

*ライブ / PIXTA(ピクスタ)

 

河野先生
河野 晃 こうのあきら

水田法律事務所

兵庫県姫路市本町68-170大手前第一ビル3階

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