日々、耳にしないことはない「集団的自衛権」という言葉。そもそも「集団的自衛権」とはどのようなものでしょうか?
日本国憲法は第9条で戦争を放棄しています。しかし、自国が攻撃された際には「個別的自衛権」により武力行使が可能となります。
そして「集団的自衛権」は、第三国が軍事攻撃を受けた場合に、直接攻撃を受けていない場合でもその第三国と共に国を防衛するための軍事力を行使することができるという権利です。
しかし、自国が攻撃されていないにもかかわらず武力攻撃を相手国に加えることは、憲法が認めた最低限の自衛権の範囲を超えてしまうのではないのか?と、問題視されています。
この集団的自衛権は「合憲」なのか「違憲」なのか、様々な議論がされていますが、今回はシェアしたくなる法律相談所で書いて頂いている弁護士の中から5人の弁護士に聞いていました。
はたして法律の専門家はどのように考えているのでしょうか?
星野 宏明 弁護士
違憲と考えます。
判例は正面から集団的自衛権の合憲性を判断していませんので、弁護士の私見ですが、集団的自衛権の行使自体は、9条の範囲を超えると考えます。
たしかに、砂川事件最高裁判決では、固有の自衛権行使は許されると判断し、特に個別的自衛権に限るとはしていません。
ただし、最高裁判断は、当該事案の解決に必要な限度でしか判断しませんので、事案解決に不必要だとして、判断回避したにすぎません。
集団的自衛権は、直接日本に武力攻撃がないのに日本に対する武力攻撃とみなし、自衛権を発動することを本質とします。
憲法9条の下では、あくまで自衛のための必要最小限の武力行使のみ許されるのであって、他国に対する攻撃を自国への攻撃とみなす集団的自衛権は、憲法9条の枠内では説明がつきません。
国民の多数が集団的自衛権行使を必要と考えるのであれば、憲法9条を改正するのが筋でしょう。
田沢 剛 弁護士
違憲と考えます。
我が国の憲法9条は、戦争放棄と戦力不保持を宣言しています。他方で、我が国は、国民の幸福追求権を保障しておりますので、国民の生命、身体の安全を守るために必要な最小限度の自衛権まで放棄していると考えるも行き過ぎです。
そこで、憲法9条自体は、自衛権を行使するための実力を保持することを否定するものではなく、自衛隊は、そのような実力を保有するものとして許容されるとのギリギリの解釈が採られてきました。
我が国の憲法前文には、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と謳われております。
第一次大戦及び第二次大戦の惨禍は、戦争というものが、国家による最大の人権侵害であるということを自覚するに余りあるものでした。だからこそ、我が国は、戦争は政府による愚行であって、憲法9条を定めて戦争を永久に放棄することにしたはずです。
集団的自衛権が、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が攻撃されていないにもかかわらず、実力をもってこれを阻止する権利」と定義されるものである以上、これはもはや自国民の生命、身体の安全を守るために必要な最小限度の実力とはいえず、その行使を許すような憲法解釈をしたのでは、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こる道が開かれてしまうのではないかと考えます。
河野 晃 弁護士
我が国が集団的自衛権を行使することは日本国憲法に違反します。
理由付けは様々ありますが、「憲法第9条をどのように読んでも、普通の日本語の解釈として集団的自衛権を認めるようには読めない。」という根本的な理由が分かりやすいのではないでしょうか。
簡単に補足すると、そもそも、憲法9条の単純な文理解釈では自国を守るための個別的自衛権ですら違憲の疑いがあります。
しかし、そこは同じ憲法の13条が国民の生命が最大限尊重されることを規定されており、他国から攻められているのにやられっぱなしということはいけない、という論拠から個別的自衛権は合憲であると導かれます。
しかし、これは同時に個別的自衛権に限っては合憲とするという理由ですから、集団的自衛権については当然違憲であるという理由付けにもなります。
仮に国家として対アメリカ政策を重視し、集団的自衛権を認めたいのであれば、憲法の解釈を強引に捻じ曲げるのではなく、国民に対してその必要性を説明し、憲法を改正するという適正な手続きに則るべきです。
星 正秀 弁護士
まず、憲法9条をそのまま読めば、
次に、
いままでは、「自衛のための必要最小限の武力」には、
しかし、「
ただ、
国民的議論をして、憲法を改正するのがスジだと思います。
寺林 智栄 弁護士
以前、記事にも書きましたが、集団的自衛権は違憲です。
集団的自衛権は、(同盟関係にある)第三国が攻撃を受けた際に、自国が攻撃されなくても軍事力を行使できるとする権利です。
このようなことは、自国を基準と考えると「攻撃をされていないにもかかわらず、相手国に軍事攻撃を行う」ことを認めるもので、憲法9条が明示的に禁じている「国権の発動たる戦争」に他なりません。
砂川事件判決が、集団的自衛権を前提としているなどと、安倍首相をはじめとする政府関係者は述べているようですが、そのような解釈は取りえません。
現政権の憲法無視の態度は明らかであり、現在、日本は、戦前の軍事国家に戻る危険性が非常に高いといわざるをえません。
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以上、弁護士の意見は全員が一致して「違憲」でした。
このような解釈がされる中、今後、集団的自衛権についてどのように進んでいくのか非常に興味深い問題といえます。戦争の記憶が薄れる中、今一度、集団的自衛権と憲法について考えてみる良い機会なのではないでしょうか。
皆様はどう思いますか?