「殺してくれ」と言われて殺害… 「嘱託殺人」はどのようなものなのか

病気で苦しんでいる妻に頼まれて夫が妻を殺害したり、祖父の介護をしていた息子が祖父に頼まれて殺害するという事件がしばしば発生しています。

被害者、加害者ともに辛い事件ではありますが、高齢化に伴い今後このような事件が増えていくという見方もあります。

これらの事件の多くは嘱託殺人罪という罪に問われ、よく聞く「殺人罪」ではありません。それでは、嘱託殺人罪とはどのような罪で、どれくらいの刑罰となるのでしょうか。また、「殺してくれ」と言われたことをどのように証明するのでしょうか?

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■嘱託殺人罪とは?

嘱託殺人罪は、被害者自身の殺害依頼を受けて殺害したことについて成立する犯罪です。

嘱託殺人の場合、被害者自身が自らの生命を放棄しているわけですが、それでも被害者の生命は保護されるべきであると考えられ、その結果、やはり法益侵害(法によって保護されるべき利益の侵害=違法性)が認められるとして処罰の対象となるわけです。

 

■嘱託とは?

嘱託殺人罪の保護法益は、人の生命であり、かけがえのないものです。

したがって、嘱託殺人の「嘱託」があったと認められるためには、通常の判断能力を有する被害者から真剣に殺害依頼を受けた場合でなければいけません。

精神病者等の判断能力を欠いた者の嘱託、強制されて行った嘱託、冗談でなされた嘱託を受けて被害者を殺害した場合、嘱託殺人罪の「嘱託」とは認められず、通常の殺人罪が成立します。

 

■嘱託殺人罪が成立する場合

嘱託殺人罪が成立する場合、「6月以上7年以下の懲役または禁錮」という刑で処罰される可能性があります。嘱託殺人罪の法定刑自体は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」である通常の殺人罪よりは軽いです。

これは、嘱託殺人の場合、被害者が自らの生命を放棄しているためです。

しかし、通常の殺人でも事情によっては刑の減軽によって5年未満の刑で処罰されることもありますし、嘱託殺人でも一切減軽が認められなければ事情によって5年以上で処罰されることもあり得ます。

したがって、嘱託殺人が必ずしも通常の殺人よりも軽くなるとは限りません。ケースバイケースです。

 

■「嘱託」の証明はどうする?

「嘱託」という事実は、その存在によって通常の殺人よりも法定刑が軽くなるわけですから、被告人にとって有利な事実です。

しかし、刑事訴訟では「疑わしきは被告人の利益に従う」という原則があるため、検察官の方で「嘱託がなかったこと」を立証しなければいけません。

検察官としては、「嘱託」がなく通常の殺人であると考える場合、被告人に被害者を殺害する強い動機があったことや、被害者が嘱託を行える状況になかったことや、被害者が自身の今後の生存を前提とする行動をしていたこと等を主張・立証して「嘱託がなかったこと」を証明することになるかと思います。

 

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

* naka / PIXTA(ピクスタ)

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