■感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症予防法」と言います。)は、感染症の発生を予防するための法律、感染症のまん延を防止するための法律です。
感染症予防法は、重大な感染症の患者について強制入院させることができる旨定めています。
■感染症のまん延を防止しなければならない利益と人身の自由との調整の問題
感染症とされるものには、種類により極めて危険で感染力の強いものもあります。そうした感染症が健常者へ感染しないよう、強制入院といった方法を採らざるを得ない場合もあると思います。
例えば、エボラ出血熱は致死率80%超で空気感染こそしないものの1個のウイルスが体内に入っただけでも感染すると言われています。
こうした感染症がまん延した場合の被害は極めて深刻なものです。したがって、強制入院が一切許されないとするのも現実的ではありません。
他方で人身の自由は憲法上保障された基本的人権です。したがって、感染症のまん延防止のための強制入院については、人身の自由に対する必要最小限度の制約でなければ違憲です。
具体的には、それほど危険性がなく感染力もそこそこの感染症の患者まで強制入院させる必要はなく、そうした場合の強制入院は必要最小限度の制約を超え違憲ないし違法と言っていいでしょう。
また、病原体が消失したり感染症でも感染力が低く治療法が確立しているなど危険性がないことが確認されたのであれば直ちに強制入院は解除されるべきであり、不当に長く身柄を拘束するのは人身の自由に対する必要最小限度の制約を超え違憲ないし違法です。
そして、強制入院に至るまでの手続についても、行政機関の思うがままというのではなく、医療機関による適正な検査を経たものである必要があるでしょうし、患者本人にも事情を確認して不服ないし異議を申し立て公正な第三者に正当に判断してもらえる手段が与えられるのでなければ、適正な手続を保障した憲法に違反すると考えます。
■ハンセン病患者の隔離では国が賠償したことも
実際、感染力が低く治療法も確立していたハンセン病患者を隔離していたケースについて、裁判所が国家賠償請求を認め、その後、隔離された患者に補償金を支給するための法律ができたという例もあります。
現行の感染症予防法は、感染症を危険性に応じて分類し、具体的な手続・措置を定めた上で「実施される措置は、感染症を公衆にまん延させるおそれ、感染症にかかった場合の病状の程度その他の事情に照らして、感染症の発生を予防し、またはそのまん延を防止するために必要な最小限度のものでなければならない」と規定しています。
法律に基づいて実施される具体的な強制入院の措置が具体的な状況の下で本当に必要な最小限度のものと評価できるものであれば合憲と考えます。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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