■厳しい経費管理と孤立
勤務弁護士の任期は3年です。更新することも可能です。私は、任期を更新して、平成24年1月から法テラス東京に移りました。
法テラス東京は法テラスの本部に近いこともあり、経費管理が非常に厳しく、自由に活動できない息苦しさを非常に感じました。
筆者は裁判員裁判対象事件などの重大事件を依頼されることも少なくありませんでした。重大な事件になると、その訴訟資料の謄写費用も高額になります(事後的に補てんされるのですが、一旦は負担しなければいけない仕組みになっています)。そして、謄写費用は、実際に謄写の申請をしないといくらになるかわからないのです。
そうであるにもかかわらず、決済を通すために事前に謄写費用の金額を明らかにせよ、などと地方事務所の経費を管理する部署から言われていたのです。これでは必要な資料を入手することができません。必要性を必死で訴えて、なんとか改善することができましたが、法テラス愛知では考えられない対応に愕然となったものです。
法テラス東京は、非常に積極的に広報・PRをしていました。刑事弁護は「犯罪を犯した悪人」を守る仕事だからでしょうか。
そういう業務を中心に据えているうえに、金がかかる事件ばかりしている(注:規定に反するような費用を要求したことは一度もありません)筆者は、あまり歓迎されていないようでした。
それ以外にもいくつか理由はありますが、次第に「ここに私の仕事はない」と感じるようになりました。そして、更新後の任期を全うせずに、筆者は法テラスをやめました。
■勤務弁護士のモチベーションは何か。
勤務弁護士の中には、長く勤めている人も一定程度います。その一定数は、安定収入と待遇を得ることが目的であり、ろくに仕事もしていないことは先日の記事で指摘したとおりです。
しかし、もちろん、誠実に意欲的に業務をしている勤務弁護士も存在しています。そういう人たちのモチベーションは、やはり、単純に「困っている人の役に立てた」という充実感ではないかと思います。
法テラスが扱う事件の依頼者には、社会の底辺で、今日の生活もままならない人がたくさんいます。刑事事件を起こす人も、実際のところはそういう人が少なくありません。
そういう真っ暗闇の中にいた人が一歩踏み出せる瞬間に立ち会えた時、あるいは、その兆しが見え始めたとき、「やっててよかった」と心から思えるものです。そういった単純な思いが、熱意ある勤務弁護士の背中を押していることは間違いないといえるでしょう。
今はそんな勤務弁護士も、少なくなってきたかもしれませんが……。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)
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