クラブのママが客を確保するためにする性交渉、いわゆる「枕営業」。
クラブのママが、妻を持つ男性と性交渉をする行為は、慰謝料の対象となる不貞行為に当たるのか?ということが問われた昨年4月の東京地裁の判決が話題となっています。裁判の内容は男性の妻がクラブのママに慰謝料400万円を請求したというものです。
原告の夫である男性とクラブのママは、約7年間の間に、月に1、2回のペースで性行為を繰り返していたようです。明らかに不貞行為のように思いますが、この裁判の結果は意外なものでした。
●驚きの判決結果
上記東京地裁は、枕営業は、売春と同様、お客から対価を得て商売として性行為に応じたに過ぎず、何ら婚姻生活の平和を害するものではなく、妻に対する不法行為を構成するものではないと判断し、妻のクラブのママに対する損害賠償請求を退ける判決をしました。
これまでの判例では、女性が、相手が既婚者であると知って性交渉をした場合には、その関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、男性と共同して妻に対する損害賠償義務を負うものとされてきました(最高裁昭和54年3月30日判決)。
一方、今回の判決の理屈からすると、顧客獲得のため、営業活動の一環として対価をもらって性交渉に応じている限りは、たとえ男性が既婚者であると知っていたとしても、男性の妻に対しては慰謝料を支払う義務がないということになります。
●男性の妻の苦痛はどうなるのか
しかしながら、女性が商売として性交渉に応じていたとしても、男性の妻は当然に嫌な思いをするでしょうし、それによって男性との間の婚姻生活が破たんすることもあるでしょう。
相手が商売上の女性であっても、一般の女性であっても、男性の妻が被る精神的な苦痛は変わりないはずです。そのため、単に対価を得ているか否かで不貞行為かどうかが左右されるとする今回の判決の理屈は疑問です。
なお、妻が控訴しなかったため、判決は確定したということですが、個人的には、高裁・最高裁にも判断してもらいたかった事案です。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)
* KAORU / PIXTA(ピクスタ)