無断欠勤し、その後連絡なくアルバイト先に来ないアルバイトに対して復讐したいというネット上での日記が最近、話題となっていました。
復讐というといささか大げさな表現ですが、アルバイトを雇うお店にとっては、アルバイトが無断欠勤し、その後連絡がないまま辞めてしまうという、いわゆる「バックれ」は悩みの種の1つでしょう。
そこで、今回は、アルバイトが「バックれ」たことによって生じた損害について請求することができるのかどうか解説したいと思います。
●「バックれ」アルバイトに対する損害賠償請求は難しい
結論としては、損害賠償請求をすること自体は可能ですが、勝訴できる可能性は低く、また、かりに勝訴できたとしても確実に費用倒れになります。
前提として、「バックれ」アルバイトに対して損害賠償請求をするには、(1)損害と(2)「バックれ」と損害との因果関係を立証しなければなりません。
(1)の損害について、感覚的には、「急遽シフト変更をしたり、代わりのアルバイトを雇わなければならなくなったりしたから、そんなものあるに決まっているだろう。」と思うかもしれません。
しかし、シフト変更等によって問題なく対応できたのであれば、結局、バックれたアルバイトに支払われるはずだった給料が他のアルバイトに支払われただけで損失はないことになります。
また、代わりのアルバイトを雇うことになったとしても、アルバイトが1人減って1人増えただけということになりますし、そもそも一般的にアルバイトは正社員よりも急に辞めることが多いので、急遽アルバイトを探すために動いたことは損害とは認められない可能性が高いです。
(2)の因果関係についても、たとえば、「当日のアルバイトが1人いなかったために売上げが何円減った」ことを立証しようとする場合を考えてみるとわかるように、「バックれ」行為が原因で損害が発生したという立証はきわめて困難です。
●「バックれ」アルバイトに何らかのペナルティを与える方法は?
損害賠償請求が難しいのであれば、「バックれた日より前に働いた分の給料の一部または全部を支払いたくない」、「バックれたアルバイトを懲戒解雇にする」など、何らかのペナルティを科したいと思う方がいると思います。
労働基準法上、使用者(雇用主)は給料の全額支払義務を負いますので、バックれたアルバイトに対しても、原則として、働いた分の給料を全額支払わなければなりません。
もっとも、「原則として」とあるように、バックれたアルバイトに対して減給の制裁ができる場合があります。
減給ができる条件は、(1)就業規則に定めがあること、(2)減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと、かつ、減給する総額が1賃金支払期(普通は1か月)における賃金総額の10分の1を超えないことです。
もっとも、「バックれ」の場合は減給できるのは1回ですから、制裁として大きなものではありません。また、今までの勤務状況に問題はないけれども無断欠勤(「バックれ」)を1回しただけという場合にまで減給ができるという就業規則を定めている会社は少ないと思います。
なお、懲戒解雇すれば今後履歴書の賞罰欄に記入しなければならないため、バックれたアルバイトへの制裁になると考える方がいますが、実は賞罰欄の「罰」に書く義務があるのは刑事罰だけですので、懲戒解雇は実質的なペナルティになるとは言えません。
以上のように、「バックれ」た場合でもアルバイトの権利は法律上守られることになりますが、「バックれ」は雇い主に大変迷惑を与える行為です。アルバイトの皆さんは、アルバイトを辞めたいときは余裕をもって退職の意向を伝えるようにしましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)
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