在日男性に「本名強要」は違法・・・そもそも「通称」使用って問題ないの?

4月24日に、静岡地方裁判所で、在日韓国人の男性社員に対してとある会社の社長が、通称使用している日本名ではなく本名を名乗るよう強要したことが違法であると判断し、この社長に対して55万円の慰謝料の支払いを命じた判決が話題になっています。

そもそも、通称の使用は法的に保護されるのでしょうか。本名を名乗るよう強要することはどうして違法と判断されたのでしょうか。今回は、この問題について考えていきます。

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■根拠となるのは「人格権」

この判決では、本名を名乗るよう強要することが、男性の「人格権」を侵害したとしています。

人格権とは、人の存在や人格と不可分に結びついている利益に関する権利の総称です。具体的には、名誉、プライバシー、ライフスタイルを決める自由、家族の在り方を決める自由、尊厳死など自分の生命をどう処分するか決める自由などが幅広く含まれます。

公的にどのような名前を名乗るかは、この人格権の問題と考えられています。

「氏名」というのは、その人の人格や社会的なイメージと深く結びついているものです。アイデンティテイの確立のためには、どのような名前で社会生活を送るかをその人自身が決めることが法的に保障されるべきものなのです。

また、どのような氏名を名乗るかは、その人が得る経済的利益とも結びついている場合があり、その意味でも法的な保護の対象となります。

例えば、芸能人が本名とは異なる芸名を名乗ること、作家がペンネームを使用することは、アイデンティテイの問題とともに経済的な利益と結びついています。

女性が結婚して、戸籍の上では夫の姓を名乗ることになったとしても、職業上旧姓を使用する場合も見受けられます。これも、同様に人格権のひとつとして保護の対象となります。

 

■静岡地裁の判決をどう考えるか

在日韓国人は、今でも、日本国内で心無い差別や誹謗中傷にさらされることが多く、その出自を明かしたくない、そのために本名ではなく日本名を通称として使用したいと考える人は非常に多いといえます。

古くから、在日韓国人や朝鮮人、中国人が日本名を通称として使用することは認められており、その点でも日本名の通称使用は法的に保護されているといえるでしょう。

そして、今回問題となったケースでは、原告の男性は長い間、その通称を使用しており、入社後も10年以上に渡り、同じ通称を使用していたという事情があります。

このような中で、他の社員の前で「日本名を名乗ったらどうか」などと強要することは、その男性のアイデンティテイを損なわせる行為であるとともに、出自に関する情報を公開するかどうか決定する自由(これも人格権に含まれると考えられます)を侵害するものといえるでしょう。

今回のケースを違法と判断した背景には、このような事情に対する考慮があったと考えられます。

 

■「通称使用」は特別なことではない

今回の判決を受けて、一部には、在日韓国人や朝鮮人らが通称使用できること自体がそもそもおかしいという意見が見受けられます。

しかし、先ほど述べたように、「通称使用」は何も特別なことではありません。日本人の通称使用が法的に保護されて在日韓国人や朝鮮人らの通称使用は保護すべきではないといえる根拠はないでしょう。

どのような氏名を名乗るかは、全ての人が本来自由に決められるはずのものなのです。

 

*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)

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寺林 智栄 てらばやしともえ 弁護士

ともえ法律事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-3 秀和日本橋箱崎レジデンス709

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