川崎中1殺害事件の容疑者とされる少年の氏名や写真などの情報を、週刊新潮が掲載し波紋を広げています。
週刊新潮は「今回の事件の残虐性と社会に与えた影響の大きさ、そして主犯格とされる18歳の少年の経歴などを総合的に勘案し、実名と顔写真を報道しました。」とコメントしています。
一連の報道に対して、ネット上では「よくやった」という声がある反面「更生の機会をなくす」などと色々な意見が交わされています。そもそも少年法61条とはどのような内容なのでしょうか?
また、週刊新潮側はどのような法的な責任を負う可能性があるのでしょうか?今回は少年法61条について解説していきます。
■少年法61条の存在
少年法61条は、家庭裁判所の審判が行われる予定の少年について、あの少年だとわかるような記事を出版物に掲載してはいけないと規定しており、審判の開始が決定される前の少年について規定しているわけではありません。
しかし、少年法61条があの少年だとわかるような記事の掲載を禁止している趣旨は、少年が未熟で社会的に保護する必要性があり、また、少年は矯正が期待できる少年の段階で更生させるのが相当であるところ、こうした記事の掲載が少年の名誉権・プライバシーを侵害し、少年の更生への妨げともなるからです。
そうだとすれば、捜査段階におけるあの少年だとわかるような記事の掲載もまた、少年法61条の趣旨に反すると考えられます。
週刊新潮は少年の実名と写真を掲載していますので、たとえ捜査段階であったとしても少年法61条の趣旨に違反し、こうした意味での違法性はあると考えます。
■少年法61条違反の効果
少年法は61条に違反した場合の罰則を定めていません。
したがって、少年法61条に違反した者に対して、少年法61条違反のみを理由として刑罰を科すことはできません。
しかし、少年法61条違反の行為が同時に刑法上の名誉毀損にも当たるのであれば、刑罰を科されるリスクがあります。
名誉毀損に当たっても、その行為が公共の利害に関する事実にかかわり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められ、真実であると証明したときには刑罰を科せられないわけですが、一応刑事上のリスクは残ります。
また、少年法61条違反の行為が民法上の不法行為に当たるのであれば、損害賠償責任を負わされるリスクもあります。
この点、少年の実名報道が問題となった裁判例の一部には、少年法61条の趣旨を重視して、少年法61条に違反する場合は、原則として不法行為の要件である違法性も充たす、例外的に逃走中の凶悪犯や指名手配犯については適法といったものもあります。
こうした考え方によれば、本件の実名報道は、不法行為の要件である違法性も充たしているということになるかと思います。
■違法性を充たさないと判断された例も
一方で、少年法61条違反が直ちに不法行為の要件である違法性を充たさないとして、少年法61条の根底にある少年のプライバシー・名誉権・肖像権・更正のための利益といった利益と出版者側の表現の自由や実名報道の必要性といった利益を総合的に比較検討し、表現の自由や実名報道の必要性が上回る場合には不法行為の要件である違法性を充たさないといった内容の裁判例もあります。
こうした考え方によれば、本件が社会的関心の高い凶悪事件であることから、実名報道も不法行為の要件である違法性を充たさないと判断される可能性があります。
ただし、この考え方によっても、様々な利益の比較検討によって判断されるわけですから、明らかに違法でないと言い切れるわけでもなく民事上のリスクは残ります。
週刊新潮は、事件の残虐性と社会に与えた影響の大きさ、少年の経歴などを総合的に勘案して実名と顔写真を掲載したということですが、以上のように、刑事上名誉毀損で処罰されるリスク、民事上の損害賠償責任を負うリスクはあります。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)