「実名報道」で生活に支障・・・報道機関に損害賠償請求はできる?

号泣会見で一時世間を賑わせた野々村竜太郎元兵庫県議員、詐欺と虚偽公文書作成・同行使罪により立件をされる予定であり、現在は実家で暮らしているようです。

野々村氏は事情聴取において、仕事をしなければならないが世間に顔を知られているからバイトもできないと打ち明けているようです。

野々村氏のように謝罪会見までもが世間に広まる例は少ないですが、犯罪を犯したと疑われる人間の実名報道は、多かれ少なかれ世間では悪評となって広まってしまい、社会生活上の不利益を被ることもあるでしょう。

もし、実名報道されたり、実名報道等を理由に企業に採用等を拒否されたりした場合、不利益を被った人は、賠償するよう報道関係者に請求することができるのでしょうか。

今回は、法律事務所あすかの冨本和男先生に取材をし、この件について伺ってみました。

会見

■企業は実名報道を理由に採用を拒否できる?

「拒否できると考えます。企業などの雇う側には採用するかどうかの自由があるからです。」

「実際に実名報道を理由に採用を拒否されたという相談を受けたという例は知りません。しかし、特定の思想や信条を持っていることを理由に雇い入れを拒否しても当然に違法とすることはできないという判例はあります。この判例の事案とのバランスからすれば、実名報道を理由に採用を拒否しても採用の自由の枠内だと考えます。」

「すなわち、思想・信条等の『考え方』を理由に採用を拒否できるわけですから、それが『行動』に出ている場合にも採用を拒否できるのではと考えるわけです。企業としても、事件を起こして実名報道された人を雇えば、事件の内容によっては企業イメージにも影響します。以上から採用を拒否されてもやむを得ないと思います。」

採用については、企業にとってもほしい人材を選ばなければならないということもあって、企業側がそういった人材ほしくないと合理的に判断する以上、採用拒否について争うのは厳しそうです。

 

■実名報道されたこと自体を理由に、報道機関へ損害賠償請求できる?

「実名報道された方は、名誉毀損やプライバシー侵害を理由に報道機関に損害賠償請求することになるかと思います。仮に報道の内容が誤りであれば、損害賠償請求が認められる余地も十分あります。」

「しかし、報道の内容が真実であれば、通常、報道機関の報道内容は公共の利害に関する事実であって、公益を図るという目的も認められやすいので、請求しても認められにくいと考えます。」

補足ですが、名誉棄損による損害賠償請求訴訟においては、利害の公共性、目的の公益性、事実の真実性について被告が証明をしなければならないことになっており、まだ裁判になっていない犯罪行為に関する事実については、利害の公共性は存在するとみなされます。

「特に犯罪行為に関する事実は、報道される方が受けるダメージが大きい一方、他方では社会的関心も高く公共の利害に関する事実ということができます。」

「したがって、損害賠償請求が認められるかは、報道内容が真実であるか、仮に真実でなかった場合には真実と信じるだけの合理的な根拠があったかどうかが決めてになってくると考えます。」

 

■実名報道が原因で嫌がらせや採用拒否をされた場合、報道機関へ損害賠償請求をすることはできる?

「請求したとしても認められないと考えます。事件を起こして実名報道を受けたとしても、嫌がらせや採用拒否といった目に必ず遭うわけではないからです。」

嫌がらせを受けたことが実名報道を引き金にされたとしても、だからといって報道関係者を責めるのは筋違いということでしょう。

「確かに事件を起こして実名報道を受ければハンデを背負うわけですが、それでも家族や友人の助けを受けるなどして支障なく社会生活を送っている人も多くいるはずです。父親の姓から母親の姓に変えたり、結婚して配偶者の姓に変えたりして社会生活を送っている人もいるでしょうから。」

実名報道は、個人のプライバシーなどセンシティブに扱われなければならないものを扱う一方、犯罪への高い社会的関心もあって許されているということでしょう。実名報道が許されるということから、犯罪がどれだけ社会的に重大なことか理解する一助になったのではないでしょうか。

 

*取材協力弁護士: 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

*画像: Pavel L Photo and Video / Shutterstock.com

スポンサードリンク
   
冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

コメント

コメント