2004年にピークとなった「オレオレ詐欺」の登場からまもなく10年が経ちます。
その間、手口は徐々に変わってはいますが、1o年もの間、衰えることなく被害が増え、2014年には振り込め詐欺の被害額が過去最高を記録しました。振り込め詐欺の報道がない日はないといってよく、現在も日本の各地で何人もの人が狙われ、被害にあっていることでしょう。
これだけ手口などが認知されてきている現在でも、被害がなくならないのは詐欺の手口や方法が巧妙化してきていることによります。しかし、その内容を見てみると、共通していることも多くあります。
近年注目されている詐欺事件は、どういったものなのでしょうか。また、詐欺に遭わないようにするためにはどうすればよいのでしょうか。詐欺事件を扱ってきた経験を踏まえて解説していきます。
■特殊詐欺とその被害者
近年多発している詐欺について、警察などでは特殊詐欺と呼んで対応を強化しています。
詐欺の中でも、特殊詐欺と呼ばれるものの特徴は、(1)電話などを利用して対面しないこと (2)振込させたり現金を郵送させたりすること (3)被害者が不特定多数であること等にあります。
代表的なものは振り込め詐欺であり、その中には、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、還付金詐欺等があります。そのほかには、未公開株詐欺などの投資詐欺等があります。
このような詐欺の被害にあう方の中には、多くの方と信頼を築いてきた誠実な方や、大過なく幸せな家庭を築かれてきた方などが珍しくありません。特殊詐欺は、このような方々の信頼に付け入る極めて悪質な犯罪といえます。
■少し人を疑ってみましょう
ここでは特殊詐欺をして人を騙そうとする人を「詐欺師」、騙される側を「被害者」として説明しますが、特殊詐欺の特徴として、詐欺師が被害者と対面しないという点があります。
被害者からすれば、相手の顔が見えないのに、なぜ信用してお金を送ってしまうのでしょうか。大きく2つの理由をあげることができます。
(1)被害者が慌ててしまう
オレオレ詐欺や架空請求詐欺等に見られる特徴ですが、被害者を慌てさせ、冷静な判断力を奪う手口があります。慌てさせる口上として、「至急必要なお金をなくした」「事故をおこして示談金が必要」「未払いがある。裁判になってしまう」などというものがあります。
このようなことを言われたら、「家族が大変だ!」「裁判にされる!どうしよう!」と思うかもしれません。
しかし、そんな大変なことであれば、保険を用意したり、あらかじめ根回しをするのが普通です。被害者を慌てさせること自体、そもそも不誠実であり、「怪しい」というべきです。
(2)被害者が利益に目がくらむ
被害者に対して、儲かると思わせて、利益への期待から、冷静な判断力を奪う手口です。還付金詐欺や、手の込んだ投資詐欺などがあります。
利益は欲しいですし、濡れ手に粟の話があれば魅力を感じるのは人として当たり前です。
しかし、そのような重大な情報が、「あなた」に来る理由は通常ありません。そういった情報は、広まらないから価値があるのです。濡れ手に粟だと嬉しくなったら、「怪しい」と思うべきです。
■知らない人は疑ってみましょう
特殊詐欺には、知らない人から突然連絡があるという特徴があります。
(1)突然の連絡
特殊詐欺の詐欺師からは、突然連絡がきます。突然知らない者から電話などで連絡がきた場合には、「怪しい」と思わなければなりません。
人は、知らない情報を大量に投げかけられると、思考を停止する傾向があります。「よく分からない」と思ったら、相手のことを信用するのではなく、立ち止まりましょう。
(2)住所や名前がわからない
突然の連絡がきたら、相手の氏名、会社名、住所等を確認しましょう。
余力があれば、それらが実在しているか、調査しましょう。詐欺師は、名前を名乗らなかったり、偽名を使ったりします。
相手が適正な業務により連絡しているのであれば、丁寧に対応するはずです。これらを誤魔化すようであれば、「怪しい」でしょう。「事情により名前は言えない」などという事情は、通常の取引ではあり得ません。
■知っている人や信用できる人に相談しましょう
お金を送金したり渡したりする場合には、家族や知人に相談しましょう。さらに、弁護士などの専門家に相談すれば詐欺被害はかなり防止できると思います。
お金を送金するということは、決定的な行為です。被害者の中には、「問題だったら返して貰えばいい」という方もいらっしゃいますが、得体の知れない者との取引で、送金理由も不明瞭ということであれば、返金を実現するためには多数の障害を乗り越える必要があります。
私が小さい頃は、小学校等で、「知らない人について行ってはいけない」とよく言われました。「知らない人にお金を渡してはいけない」ということも、一緒に伝えるべきことなのかもしれません。
■世の中には詐欺師が大勢いる
ご自身の判断を疑ってください。判断の正確性は、平時の頭の良さではなく、その具体的な事柄に対してどれだけ準備できているかに依っています。
詐欺師は、日頃から、何十人、何百人の被害者を相手にしている詐欺のプロです。資金が必要だと言われたり、投資が必要だと言われたら、「私はこの件については素人だ」という気持ちを持って、信頼できる第三者に相談すべきでしょう。
被害者の中には、ご家族の方が説明し説得しようとしても、かたくなに詐欺師の言葉を信じ続けて、結果的に家族関係を壊してしまう方もいらっしゃいます。自分が特殊な事件の当事者(被害者)になっていると判断することには心理的抵抗があるでしょう。しかし、あなたに早急な判断を強要したり、甘言を弄する見ず知らずの人と、これまで人生を共にしてきた家族の方のどちらを信用するか、答えは明らかではないのでしょうか。
*著者:弁護士 荻原邦夫(りのは綜合法律事務所。刑事事件を主に取り扱っています。お客様に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応します。)