世界で行われる「おとり捜査」 日本が消極的な理由とは

みなさんは、テレビや映画で「おとり捜査」のシーンを観たことがありますか?

捜査員やその協力者が犯罪の実行を働きかけ、実行される瞬間をじっと待ち、実行された瞬間に対象者を検挙するという捜査方法です。

海外では実際に、テロを企てているモロッコ人に、FBIの覆面捜査官がその実行を煽り、逮捕に導いたというような「おとり捜査」が行われたこともあります。

そんな「おとり捜査」、実際には、日本は世界各国に比べその実施には消極的です。それは、おとり捜査が持ついくつかの問題点が原因となっています。

おとり操作■おとり捜査とは

おとり捜査という単語を耳にしたことがある方は多いと思いますが、実は、おとり捜査は刑事訴訟法や刑法に明文では何ら規定がされていません。

ただ、裁判例では、おとり捜査を「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの」と位置付けています。

簡単にいうと、実際には買う気がないのに、覚せい剤や麻薬の購入希望者を装って売人に近づき、売人から薬物を売ってもらった現場で摘発する場合などです。

おとり捜査は、特に薬物密売の摘発などに効果的であり、日本でも稀に行われることがあります。

 

■問題点

おとり捜査は、本来犯罪を取り締まるべき国家機関が、犯罪を誘発し、作出する性格を否定できず、司法の廉潔性や信頼を害する点で違法性があるとされています。

したがって、実務では、無制限にいかなるおとり捜査も可能となるわけではありません。

一般には、被害者がおらず犯罪の性質上おとり捜査による摘発の必要性が高く、おとり捜査の態様が社会通念上相当な範囲内に限って、おとり捜査による摘発も適法と考えられています。

 

■許されるおとり捜査

おとり捜査のうち、犯罪の意思を固めている者に対し、犯罪の機会を提供するにすぎない場合は、基本的に適法とされています。

例えば、日ごろから購入希望者がいれば薬物を売りつけようとうろうろしている売人に対し、購入希望である伝え、あるいはサンプルを見せてもらうよう依頼し、売人が薬物を取り出したり、代金を受け取った時点を見計らって薬物譲渡や薬物所持で逮捕する場合です。

薬物密売は現行犯でないと摘発が難しく、すでに密売の意思を固めている者に対し、売買の機会を提供したにすぎないので、適法と考えられます。

 

■違法なおとり捜査

これに対し、普段全く薬物の密売を行っていないが、薬物入手ルートは知っているという人物に対し、捜査官が特に薬物を仕入れるように依頼し、購入者を装った場合には、元々犯意のない人物に犯罪を唆した面が強く、違法となる考えられます。

極端な例では、被害者に強い恨みは持っているものの、殺人まではする意思のない人物に対し、捜査官が殺人を唆しておきながら、いざ殺人の実行をしようとした段階で殺人未遂で逮捕するようなことも当然違法です。

おとり捜査はアメリカなどではより広く行われています。皆様はおとり捜査をどう思いますか?

興味のある方は「日本でも司法取引が導入へ…メリット・デメリットは?」の記事も参照してみて下さい。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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