政務活動費をめぐる問題で、野々村竜太郎元県議の自宅に捜索が入りました。
今回の家宅捜索は「虚偽公文書作成・行使」の容疑とされていますが、この容疑はどのような行為を差すのでしょうか?
また、不正に政務調査費を受け取っているので「詐欺ではないのか?」という疑問があるかもしれませんが、これについても解説してみたいと思います。
■どんな罪
一言で簡単にいうと、公務員が、真実に反する内容虚偽の公文書を作成する罪(虚偽公文書作成罪)です。作成すること自体が刑罰の対象です。
また、作成した虚偽の公文書を実際に行使、つまり使用すると、虚偽公文書行使罪となります。
■どんなときに成立するか(要件)
この罪の要件は、(1)公務員が、(2)行使の目的で、(3)内容虚偽の公文書を作成すること、です。
野々村氏は県議会議員の特別職公務員であり(要件(1))、政務調査費を申請するという行使目的も認められます(要件(2))。
そして、日帰り出張の全部まではいかなくとも、おそらく警察で何回かの出張については確実に記載が虚偽の公文書(政務調査費の申請書や出張報告書等)である(要件(3))との裏が取れたため、逮捕に踏み切ったのでしょう。
今回、一部でも故意に虚偽の出張をしたとする報告書や政務調査費の申請書を作成していれば、虚偽公文書作成罪が成立する可能性は高いと思われます。
虚偽公文書行使罪も、作成した虚偽の報告書や政務調査費を議会宛に提出しているはずですので、問題なく成立するでしょう。
■警察の本当の狙い
カラ出張で不正に政務調査費を受け取ったのであれば、詐欺ではないか?というのが普通の方の感覚だと思います。
なぜ、詐欺ではなく、虚偽公文書作成とその行使罪で捜索したかというと、詐欺罪は立証のハードルが高く、裁判に耐えうる証拠をまだ掴んでいないために、まずは立件しやすい虚偽公文書作成罪(カラ出張という内容虚偽の立証のみで立件できます。)と行使罪で捜索・差押え(逮捕)をし、自宅や事務所の捜索差押えで物証を押さえ、取り調べもして詐欺の十分な証拠を得てから詐欺罪で立件する狙いであると推測されます。
基本的には虚偽公文書作成罪と同行使罪の取り調べで、余罪(詐欺)についても聴取することは適法ですので、取り調べで詐欺罪の自白でも得てから、本丸の詐欺罪に切り替えて再逮捕、起訴する可能性が高いと思います。
別件逮捕とも呼ばれるもので、殺人事件などでも被疑者をいきなり殺人罪で逮捕するのではなく、まずは死体遺棄罪で逮捕して身柄拘束することが多いのと一緒です。
もっとも、虚偽公文書作成と行使罪の取り調べや捜索・差押えで詐欺罪立件に必要な十分な証拠、供述を得られなかった場合には、詐欺での立件をせずに終結する可能性もあります。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)