「ドコモからiPhoneが発売!」「●●が経営統合!」などという記事をどこよりも早く掲載し、その数時間後には報じられた会社が「報じられた事実はございません」など全否定するという、不毛なやりとりがしばしば行われています。
この様な、いわゆる「飛ばし記事」ですが、事実とは異なる内容を影響力の強いメディアが報じる事に問題はないのでしょうか?
■飛ばし記事の問題点
飛ばし記事の最大の問題点は、対象となった会社や団体が「報じられた事実はございません。」などと、不毛なやりとりともいえる対応を行わなければならなくなることと、一般市民が飛ばし記事の内容を信じて行動することがありうることにあります。
飛ばし記事で根拠もないことを報じられる度に、会社の広報担当などが説明に追われるとすれば、本来やるべき業務に支障を来すことも考えられます。
一般市民からしても、記事の内容を信じて、新商品に関する購買行動を決めたのに、計画が狂うといったことがあり得ます。
■飛ばし記事の違法性
現在、飛ばし記事を規制する法律はありませんし、それ自体が不法行為として違法であるともいえないので、原則として、飛ばし記事を掲載したマスメディアが何らかの責任を問われることはないでしょう。
例外的に、飛ばし記事でマスメディアの責任が問題となりうるのは、実害が発生した場合に限られます。例えば、飛ばし記事が原因で対象の会社の信用が低下したり、売上が落ちたりした場合などが考えられます。
これに対し、対象の会社の広報が説明に度々追われるにすぎない場合には、飛ばし記事が違法行為であるとまではいえないでしょう。会社に関する説明をするのが広報の本来の業務であり、基本的には業務妨害とはいえないからです。
さらに、一般市民が、飛ばし記事の違法性を主張することは、尚更難しいです。記事やニュースは、記者が取材した情報を(ある程度脚色・編集して)読者に提供するものですが、真実であることまで保証するわけではありません。
情報の真偽は、第一義的には読者が自ら判断すべき性質のものだからです。
■まとめ
こうしてみると、飛ばし記事が違法となるのは、対象となった会社の信用が大きく低下したとか、売上が大きく落ち込んだようなよほど酷い実害が生じた場合に限られることになるでしょう。
新聞記事やネットに限らず、世の中の情報は、あくまで情報の受け手がその真偽を判断しなければなりません。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)