アメリカのアップルと韓国のサムスンが特許侵害を巡って裁判を繰り広げています。
5月2日にアメリカで行われた裁判では互いの特許侵害を裁判所が認めたとのことですが、日本では5月16日に米アップル日本法人と韓国サムスン電子の特許侵害に関する訴訟の控訴審の判決が出されます。(5月16日16時追記:二審ではサムスンが逆転勝訴)
そこでこの2社はどんな特許侵害を行い、何が争点となっているのかを今一度おさらいしてみたいと思います。
■アップルが提起した債務不存在確認訴訟
今回判決が出される事件は、アップルがサムスンに対して、アップルはサムスンに損害賠償債務を負っていないことの確認を求めた事件です。原審の東京地裁では、アップルは損害賠償債務を負わないとして、アップルが勝訴しました。
■損害賠償請求権を行使することが権利の濫用?
東京地裁は、アップルの一部の製品等について、携帯電話で利用されているW-CDMA規格に関するサムスンの特許権の技術的範囲に属することを認めました。そうであれば、通常であれば、サムスンはアップルに対して損害賠償を請求できるところです。
ところが、アップルは、サムスンが損害賠償請求権を行使することは権利の濫用(民法1条3項)であるとの抗弁を主張しました。
権利の濫用は、一般条項といわれ、条文をいくら見ても要件があいまいです。具体的事情を総合的に評価して、濫用か否かが判断されます。
■濫用とされる具体的事情とは?
東京地裁は、サムスンがFRAND宣言をしていることから、サムスンがFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していることなどを理由として、サムスンが損害賠償請求権を行使することは権利の濫用であるとしました。
標準化における必須特許について、公正、合理的かつ非差別的な条件(FRAND条件)でライセンスを許諾する用意がある旨の標準化団体に対する誓約(宣言)をFRAND宣言といい、これは標準化団体において標準化の普及を進めるための手段です。
東京地裁は、サムスンはFRAND宣言をしたからFRAND条件を具体化すべくアップルと誠実に交渉する義務があるのに、サムスンがアップルと誠実に交渉しなかったことを、サムスンがアップルに対して損害賠償請求権を行使してはならないひとつの事情として認定したのです。
■控訴審の判断は?
報道によると、サムスンは、控訴審で、「アップルの交渉態度は不誠実で、サムスンはFRAND宣言をしていても賠償請求できる」旨主張したようです。つまり、交渉に不誠実であったのはサムスンではなくアップルだというのです。
控訴審の判断は、FRAND宣言に関する先例となる一事例として位置づけられることになるでしょうから、控訴審が重視する事情とそれに対する評価が注目されるところです。
また、権利の濫用などの一般条項、裁判例の積み重ねで明確になっていくところがありますから、権利の濫用の一事例としても注目したいところです。
*著者:弁護士 荻原邦夫(りのは綜合法律事務所。刑事事件を主に取り扱っています。お客様に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応します。)
*画像はウィキメディア(Brandon Daniel)より