女優の浅香光代氏が元首相との間に隠し子がいることが分かり話題となっています。
子供を産んだ事実を浅香氏が公表しなかったのは「相手の名前に傷がつく」のが理由だった、と報じられています。
今回は、もし男性のあなたが隠し子の存在を明かされるなどして「名前に傷がつく」などの実害が生じた場合に、明かした相手に対して訴えることができるのかどうか、考えてみましょう。
隠し子の存在を明かされたことで、その人の社会的評価(人がその品性、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価)が低下した場合には、名誉を毀損されたとして損害賠償請求をすることが可能です。
ここにいう「社会的評価」とは、社会から受ける「客観的な」評価であって、自分自身の主観的な評価である「名誉感情」とは異なります。
話はそれますが、名誉感情が害された場合には、名誉感情の侵害による不法行為が成立する余地があり、実際に不法行為の成立を認めた裁判例として大阪高裁昭和54年11月27日判決があります。
この事案は、タクシーの車内で乗客がタクシー運転手に対し、「今は運転手と呼ばれているが昔は駕籠かきやないか」、「人間面をしているが人間並みには扱わない」、「我々の利用によって生活しているのやないか」等と言いだし、乗客の妻が制止したにも拘らず目的地に着くまで約20分間同趣旨の言動を繰り返したというもので、タクシー運転手の名誉感情を毀損し、精神的苦痛を与えたと認定されました。
話を戻すと、そもそも、隠し子がいないにもかかわらず、「隠し子がいる」との誤った情報を流布されて名誉が毀損された場合には、損害賠償のみならず、謝罪広告等の名誉回復処分(民法723条)を請求することも可能です。これは、金銭による賠償では填補されない損害(社会的評価の低下)を回復させるために規定されたものです。
■どのような場合に名誉毀損が成立する?
では、どういう情報をどのように流布した場合に名誉毀損が成立するのでしょうか。ここが一番知りたいポイントだと思います。
まず、社会的評価を低下させたと言うためには、名誉を毀損する情報が「一定の範囲に」流布されることが原則として必要になります。そして、流布の方法について制限はなく、新聞報道や出版に限られず、インターネット上に書き込む行為や貼紙・広告を出すことも広く含まれます。
次に、どういう情報が名誉を毀損する情報に当たるのかという点についてですが、これは「一般人の感覚」を基準として個別具体的に判断されます。
隠し子の存在を暴露された場合についてみると、隠し子が愛人との間の子なのか(婚姻期間中に、配偶者以外の人との間で子をもうけたのか)、そうでないのかによって異なると思いますね。前者の場合には、愛人関係を有していた期間があるということで、一般的にその人の社会的評価は低下すると判断できると思います。
■いつでも不法行為となるわけではない
ただし、いかなる場合も名誉毀損による不法行為が成立するというわけではありません。名誉を毀損された人の名誉権(人格権)と名誉を毀損した人(法人)の表現の自由の調整を図る必要がありますので、その観点から一定の場合に免責が認められています。
具体的には、事実を摘示して他人の名誉を侵害する行為が(1)公共の利害に関する事実にかかわり、(2)もっぱら公益を図る目的があった場合には、(3)摘示された事実が真実と証明された場合、または、真実と証明されなくても真実と信じたことに相当な理由がある場合には、不法行為は成立しません。
最後に、他人に関する特定の事実を流布する行為によってその他人の社会的評価が低下しなかった場合には、名誉毀損による不法行為は成立しませんが、その他人のプライバシー権(私事を公開されない権利)を侵害したとして不法行為が成立する余地があります。
特定の事実を流布することによる名誉毀損とプライバシー侵害は類似していますが、プライバシー侵害は上述した通り、社会的評価が低下しなくても成立する点、上記(2)の「真実性」による免責が認められていない点で名誉毀損と異なります。
なお、名誉毀損の場合と同じく、プライバシー権と表現の自由はしばしば衝突するわけですが、この場合の調整は特定の事実を「公表されない法的利益」と「公表する理由」、「公表する態様」との相関関係で判断される傾向にあり、不法行為が成立しないこともあることを覚えておいてください。
上記の観点から、インターネットに書き込みをする場合等、何らかの表現を行うときには、特定人の名誉毀損にならないか、プライバシー侵害にならないかといった点に注意するようにしましょう。