Amazon倉庫で身分を隠して働き「取材」違法性は?

みなさん、Amazonのサービスは利用していますか?

書籍をはじめあらゆる商品を手軽にオンライン購入でき数日中に入手できるそのサービスは流通の概念を大きく変え、私たちの生活スタイルにも様々な影響を及ぼしています。

さてそのAmazonの舞台裏は非常に過酷な労働環境である、という噂もネット上では耳にすることがあります。その労働環境について、アメリカの記者が身分を隠して潜入取材をした事実が報じられました。

今回は、労働環境の実態よりも、潜入取材そのものに法的問題はないのかどうか、検証してみたいと思います。

倉庫

身分を隠してジャーナリスト等が入社して取材をし、その後企業の実態を公表するという、いわゆる潜入取材については,問題点が2つあります。

1つは、ジャーナリストと知っていれば雇わなかったのに、身分を隠して、あるいは虚偽の身分を申告して入社したことが詐欺罪に問われないかという点であり、もう1つが、仮にブラック企業だったとして、それを公表することが名誉棄損にならないのか、逆に表現の自由の範囲なのか、という点です。

それぞれ解説していきます。

 

■詐欺罪に問われるか否か

まず1つ目の「詐欺罪に問われるか否か」という点です。この点は、暴力団が身分を隠してゴルフをした場合に詐欺罪で逮捕、起訴され、有罪となるという判例が多数存在します。

暴力団であると知っていればゴルフ場側は利用させなかったのに、虚偽の職業を申告してゴルフ場の利用という利益を得たため詐欺罪に該当するというものです。

暴力団だけ?身分隠しただけで「詐欺罪」に」で紹介されていましたね。

この理屈からいけば、ジャーナリストであると知っていれば入社させなかったのに、虚偽の身分を申告して入社し給料を得るという利益を得たということで、そのジャーナリストは詐欺罪になるという結論になります。

もっとも、ゴルフ場の件でも、現実問題としてゴルフ場は利用料をもらっており、経済的な観点からは損害はありません。損害がないにも関わらず詐欺罪を成立させるのは、やはり利用者が反社会的勢力の暴力団であるという政策的理由からだと考えられます。逆に暴力団でなければ職業や氏名、年齢を偽ったとしても詐欺で立件されるケースはまずないでしょう。

とすると、ジャーナリストの場合であれば、入社したジャーナリストは(のちに会社の実情を公表するという点は措くとして)給料に見合った仕事をしており、会社側に実質的な損害はありません。ですので、日本では詐欺罪として立件される可能性は極めて低いと思われます。

 

■記事が名誉毀損にあたるか否か

次にジャーナリストの記事が名誉毀損に該当するか否かについてです。

ブラック企業の実態を広く社会に公表することは社会的に意義があることであり、表現の自由で保護されるべき行為であることは疑いありません。

もっとも、企業としても企業内部の事情を安易に公表されてしまっては名誉が毀損されますし、ジャーナリストの記事が必ずしも正しいとは限らず、また誤ってはいないものの読み取り方次第では誤解されてしまうように書かれていることもあります。

そこで、企業とジャーナリストのいずれを保護するのか、非常に難しい問題が発生することになります。

この点は日本では、(1)公共の利害に関する事実であり、(2)表現行為が専ら公益目的で、(3)内容が真実である(結果的に内容が虚偽であったとしても十分に調査し真実であると信じていた場合も含む)場合には名誉毀損は成立しないという規定が存在します。

本件では、(1)ブラック企業の実態を公表することは、公共の利害に関する事実であるということはできますが、(2)公益目的があるかどうかは微妙です。(3)仮に内容が真実であったとしても、公益目的がないという理由で名誉毀損が成立してしまう可能性はあると思われます。

裁判所も企業だから支持するというわけではありませんが、結果的には企業が勝訴する判決が出る可能性が高くなり、ジャーナリストとしては厳しい判決が出ることを覚悟しておく必要があるでしょう。

*参照:Amazon倉庫で身分を隠して働いた記者が語る「過酷な労働環境」とは? – GIGAZINE

山口 政貴 やまぐちのりたか

神楽坂中央法律事務所

東京都新宿区津久戸町4-1 ASKビル2-B号室

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