南青山マンション「建て替え」契約者は補償されるか?

三菱地所が東京・南青山に建設中の高級マンションで、配管用貫通孔等の施工の不具合が問題となっていましたが、このマンションについて、当初の引き渡し予定日を前に、補修ではなく建て替えをすることが決定されました。

このような場合には、売主と買主との間の法律関係はどのようになるのでしょうか。

マンション建て替え

■合意解約

今回は、売主と買主との間で、合意解除のための協議が進められているようです。買主に対しては、手付金の返還に加えて、手付金の2倍の額の「迷惑料」が提示されているとのことですから、一応金銭的には十分な補償が提示されているといえるかも知れません。

これに買主が納得して合意解除がなされれば、当初の契約の効力はなくなりますが、当然のことながら、買主が納得しない場合には合意解除は不可能です。

■解約手付

マンションの売買契約では、ほとんどの場合、契約時に手付の授受がなされています。

手付が授受されている場合には、当事者(売主または買主)の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができます。

つまり、売主・買主双方とも、手付金分の損害を覚悟すれば、一方的に契約をなかったことにできるということです。

ただし、「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」という条件がありますので、この「履行の着手」後は一方的な解除ができなくなります。

何が「履行の着手」に当たるかは、しばしば争いとなりますが、判例は、「客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」としており、単なる履行の準備行為では足りないとしています。

具体的には、履行期到来後に、買主が売主に履行を求めつつ、いつでも残代金の支払いができるように準備していた場合等には「履行の着手」があったとの判断がなされています。

今回の件でも、個々の買主に「履行の着手」が認められれば、もはや売主は手付の倍額償還による解除はできません。

■債務不履行

合意解除も手付の倍額償還による解除も不可能な場合には、当初の契約の効力が存続します。しかし、今回は、当初の契約どおり引き渡し予定日に売主が建物を買主に対して引き渡すことが不可能となっていますから、売主が契約どおりの債務を履行しない、すなわち債務不履行という状態になります。

この場合には、買主はもちろん契約を解除することもできますし、売主に対して損害賠償を請求することもできます。

本件では、予定通りに本件マンションへの引越しができなかったことによって余分にかかることになった費用等を損害として請求することになるでしょう。

また、本件マンション購入後に具体的な賃貸や転売の予定があり、それが可能であったという事情があれば、得られるはずだった利益が損害として認められる可能性もあります。

*参考:三菱地所:南青山の高級物件を建て替えへ-費用は鹿島が負担 – Bloomberg

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