大阪の私立小学校に勤務していた女性調理員が女性アルバイト職員に給食用の米約50kgと食塩1kgを持ち帰らせたということで、市教委は19日に調理員を停職の懲戒処分にすることを決めたそうです。
調理員は「バイトの給料が安く、かわいそうだった」と話しているとのことですが、持ち帰りがばれないよう、別の同僚を通じて食材を過大に発注した疑いもあるということです。
事情はどうあれ、職場の商品を勝手に持ち帰ることは明らかに問題です。普段慣れ親しんだ職場の商品ならば大丈夫だろうと気の緩みもあるかもしれませんが、絶対にしてはいけないことです。過去の判例などを踏まえつつ、こういった行為の何が問題なのか、どういった罪になるのか、解説していきたいと思います。
■女性アルバイト職員が給食用の米約50㎏と食塩1㎏を持ち帰った行為について
窃盗の罪(刑法235条)が成立しないか問題になります。
「窃盗」とは、他人の財物を窃取する罪です。「窃取」とは他人の占有を犯し、自分や第三者の占有に移すことです。
米も食塩も勤務する私立小学校の占有する財物です。女性アルバイト職員は、この私立学校の米・食塩に対する占有を私立小学校の了承なく自分の占有下に移したわけですので「窃取」したと言え、窃盗の罪(刑法235条)が成立します。
窃盗の罪が成立し起訴された場合、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
■調理員が女性アルバイト職員に米・食塩を持ち帰らせた行為について
窃盗の教唆の罪(刑法61条1項)が成立しないか問題になります。「教唆」とは、特定の人に犯罪実行の決意を生じさせることです。
調理員は、女性アルバイト職員をそそのかして私立小学校の物を持ち帰らせ窃盗を実行させていますので、窃盗の教唆の罪が成立するかと思います。
教唆犯も、起訴された場合、犯罪を実行した者と同じ刑が科せられます。
■調理員が食材を過大に発注した行為について
背任の罪(刑法247条)が成立しないか問題になります。
「背任」とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人の財産を侵害する罪です。
調理員は、勤務先である私立小学校のために食材の発注等の事務を処理する者であり、今回、女性アルバイト職員の利益を図るために、食材の発注権限を濫用して任務に背いたといえますので、背任の罪が成立するかと思います。
背任の罪が成立し起訴された場合、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになります。
今回のように新聞沙汰になっていないが世間で問題になっているケースとして、職場の文房具を持ち帰ったとか、職場の自動車を会社に無断で持ち出し私用で使ったとかありそうですが、これらの行為も犯罪になり得ます。
他人の自動車を乗り回した事案について、後から元に返すつもりの場合もあるかと思いますが、たとえ返還の意思があっても窃盗の罪が成立するとするのが判例です。
今回のケースにおいて、当たり前の事ですが、調理員や女性アルバイト職員は、「職場の物は他人の物」といった認識を持つ必要があったと思います。