道路脇に咲くバラ、見るぶんには綺麗なものですが、ふとしたときに顔に刺さってケガを負ってしまったとしたら誰が責任をとってくれるでしょうか?
滋賀県大津市の女性が道を管理する市を相手取り、道路脇に咲くバラのトゲで軽傷を負ったとして慰謝料など260万円の支払いを求める提訴がなされていたそうです。
市はケガを負った女性の指摘から半月ほどでバラを撤去したそうですが、本訴訟の行方はどうなるでしょうか。関連する法律を紹介するとともに想定してみたいと思います。
報道では、女性は市道を歩行中、後方から来た車を避けようとして道路脇に寄った際、側溝にたまった土から生えていたバラのとげが顔面に当たって負傷したようです。
まず、女性は市を相手に損害賠償請求の裁判を起こしていますので、根拠となる法律は国家賠償法第2条第1項になると思われます。
■国又は公共団体に責任がある管理の瑕疵とは
同法第2条第1項は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。
歩行者が歩行中に車を避けて道路脇に寄るという動作は普通に見られる光景ですから、女性は、道路に交通の妨げになる障害物(とげのあるバラ)があるのにこれを放置した市の管理に瑕疵があったと考えて、市に対して損害賠償を請求したものと思われます。
ところで、国家賠償法第2条第1項にいう「営造物の管理に瑕疵がある」というのは、営造物の維持、修繕、保存等において、通常有すべき安全性を欠いた状態を指し、その判断は、営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等の諸般の事情を総合して事故発生を客観的に予測できたかどうかによって行われます。
本件に即して言えば、事故現場の道路幅、車や歩行者の往来の頻度、バラの生育状況、バラの道路へのはみ出し具合、道路上での歩行者の予想される行動、道路の見通し状況など諸般の事情を総合して、本件同様の被害発生を客観的に予測できたかどうかを判断していくことになると思われます。
■直ちに市の責任が認められるわけではなさそう
もっとも、道路管理者である市の管理能力にも、人的・物的・財政的な側面から自ずと限界がありますので、一般的抽象的な危険性だけで、直ちに市の責任が認められるのは現実的ではありません。
歩行者側にも道路の安全歩行に注意し、損害を回避すべき責任がありますので、損害の公平な分担という観点からは、これなら市に責任を負わせてもやむを得ないと言えるだけの事情が必要と考えられます。
例えば、かつて同様の被害事故があったとか、市民からの通報があって市が危険性を認識していたとか、バラが歩行者の安全歩行に支障が生じるほど道路にはみ出していたなどの事情が、市の責任を認める前提として必要になると思われます。
裁判の行方は、事案ごとの具体的な事実次第ですので、あらかじめ結果を見通すことは難しいですが、およそ以上のような考えをもとに結論が出されるのではないかと思います。