大津市で自殺した中2男子生徒がいじめを受けていた問題がありましたが、この問題をめぐり、ブログに無断で顔写真を掲載され「加害少年の母親と誤解された」ということでデヴィ夫人を相手取り慰謝料などを求めた訴訟の判決がありました。
裁判長は「ブログの記載は非常に軽率なものと言わざるを得ない」として、デヴィ夫人に165万円の支払いを命じたそうです。
デヴィ夫人のブログともなれば相当多くの人が見るページで、原告には一定の被害があったものと思われますが、今回どのような点が問題だったのか、弁護士の私が想定も交えて解説してみたいと思います。
民事の問題としては、デヴィ夫人が無断で人の顔写真をブログに掲載したことについて、不法行為に該当するかが問題となってきます。
■名誉毀損に係る民法は
民法709条は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定め、同法710条は「他人の身体、自由もしくは名誉を侵害した場合または他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と定めています。
このように、民法は、名誉毀損が不法行為となることと、名誉毀損によって相手方に精神的損害を負わせてしまった場合にその損害の賠償(慰謝料の支払い)をしなければならないことを定めているわけです。
ここでいう「名誉」とは人に対する社会的な評価であり、「名誉毀損」は人に対する社会的な評価を低下させることです。
■デヴィ夫人の場合はどうか
本件は、デヴィ夫人が、自身のブログで現実にあったいじめ問題を取り上げ、加害者の母親を非難し、その際女性の写真画像をインターネット上から引用した、という事案です。
写真画像の女性が加害少年の母親であると一般人が誤信してしまうような掲載であれば、写真画像の女性は世間から加害少年の母親であるというイメージを持たれてしまうわけですから、写真画像の女性の社会的な評価を低下させたとして、デヴィ夫人の行為は名誉毀損に当たります。
デヴィ夫人は、「いじめた母親とは一言も書いていません」と反論しているようですが、「いじめた母親」と書いていなくても、人に対する社会的な評価を低下させている以上、名誉毀損に当たります。
また、デヴィ夫人は、写真画像が「ネットの世界ですでに氾濫していたもの」であるとか、「写真を撮った方も引っ込めていない」とか、「私のブログだけを取り上げて名誉毀損と提訴するのは不条理」であるとか主張しているようですが、他の人がやっているからといって許されるわけでもありません。
■不法行為にならない場合も
なお、最高裁判所は、表現の自由との調整の見地から、名誉毀損に当たる場合でも、公共の利害に関する事実に関わり専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないとしています(最判昭41・6・23民集20-5-1118)。
しかし、本件において、写真画像の女性はいじめ問題に無関係ということですので、デヴィ夫人の摘示した事実は真実でなく不法行為になるでしょう。
■被害者ができること
名誉毀損として不法行為に当たる場合、被害者としては、名誉を毀損した者に対して、精神的損害について慰謝料を請求することができますし(民法710条)、名誉を回復する措置(謝罪文の掲載等)を請求することもできます(同法723条)。
■名誉毀損に係る刑法は
刑事の問題としては、名誉毀損の罪(刑法230条1項)が成立するかどうかが問題となってきます。
刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
ここでいう「名誉」も人に対する社会的な評価であり、「名誉毀損」は人に対する社会的な評価を低下させることです。
■名誉毀損と言える可能性が高い
本件において、デヴィ夫人が、ブログで写真画像の女性をあたかもいじめ加害少年の母親であると思われるような掲載をした上でいじめ加害少年の母親を非難する文章を付けているのであれば、やはり写真画像の女性が加害少年の母親であるとのイメージを世間に植え付けてしまうのですから、写真画像の女性に対する社会的評価を低下させ、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ということができます。
名誉毀損の罪に当たる場合でも、刑法230条の2第1項は、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」と規定しています。
また、最高裁は、刑法230条の2第1項の証明がない場合でも、「行為者がその事実を真実だと誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときは、故意がなく、名誉毀損罪は成立しない」としています(最大判昭44・6・25刑集23-7-975)。
しかし、本件において、写真画像の女性はいじめ問題に無関係ということですので、デヴィ夫人の摘示した事実は真実でないわけですし、単に他の人が写真画像入りで掲載していた記事を鵜呑みにしたということであれば、デヴィ夫人が写真画像の女性をいじめ加害者の母親と誤信したことについて「確実な資料、根拠に照らして相当の理由」があるとはいえないのではと考えられます。