マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズが製造した冷凍食品に農薬が混入した問題は昨年末から続き未だ真相解明のめどは立っていません。
回収の対象商品は49商品640万パックにも及び、全国にちらばった大量の商品をもう一度集約するということで気が遠くなるような事態になっています。1月19日時点での回収率は80.1%とのことですので、まだ回収すべき商品は残っています。
もしあなたがスーパーなど小売店の店主だとして、回収の告知を知らずに対象商品を販売してしまった、あるいは知っていたのに回収を怠り販売してしまった場合、それぞれ罪に問われることはあるのでしょうか?
誰が悪いのかを追究し責任をとってもらうのも大事ですが、起きてしまった過ちは社会全体で協力してカバーしていきたいもの。小売店の皆さんが回収に協力するのは大前提なのでしょうが、もしそこで意外にも罪になってしまう場合があるとしたら、という視点で弁護士の私が解説します。
まずは回収の告知を知らずに対象商品を販売し、対象商品を食べた消費者が腹痛・下痢・嘔吐等の傷害を負った場合です。
■告知を知らなかった場合
この場合、店主は、販売してはいけない商品だという認識がありませんので、故意犯である傷害の罪に問われることはありません。
故意犯である傷害の罪が成立するためには、人の身体を傷害することについての認識が必要ですが、この場合そうした認識が認められないからです。
故意犯である傷害罪が成立しない場合、過失犯の成否が問題となりますが、業務上過失致死傷の罪に問われることもないでしょう。
業務上過失致死傷の罪は「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」(刑法211条1項)場合に成立しますが、ここでの「業務」は他人の生命身体に危害を加えるおそれのあるものと解釈されており、スーパーでの食品の販売自体は通常危険性もなく「業務」に当たらないからです。
あとは過失傷害の罪に問われるかどうかですが、回収の告知に気付かず販売したことについて、過失すなわち注意義務違反(注意すれば結果を認識することができ、結果を回避し得たにもかかわらず、不注意により認識を欠き結果を回避しなかったこと)が認められる場合、「30万円以下の罰金又は科料」(刑法209条)が科せられることになります。
次に、回収の告知を知っていたのに対象商品の回収を怠り、販売対象商品を食べた消費者が腹痛・下痢・嘔吐等の傷害を負った場合です。
■告知を知っていた場合
この場合、店主は、人の身体を傷害することについての認識があり、傷害の結果についても認容していると考えられますので、故意犯である傷害の罪を問われることになります。
故意犯である傷害の罪に問われた場合、店主は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑法204条)に処せられることになります。
また、食品衛生法は「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し」ているものや、「人の健康を損なうおそれがあるもの」の販売を禁止し(食品衛生法6条)、違反者に罰則を定めていますので、店主はこの食品衛生法違反の罪に問われる可能性もあります。
この場合、店主は「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」(食品衛生法71条)に処せられることになります。会社として販売していた場合、会社は「1億円以下の罰金」(食品衛生法78条1号)に処せられることもあります。
消費者は、メーカーだけでなくお店も信用して商品を購入しています。消費者からの信用を失えば、お店も存続できなくなるはずです。
当たり前の事ですが、食料品を販売する者には、コンプライアンスないし危機管理の問題として、自らが販売している商品について農薬混入などの可能性がある場合、速やかに確認し、手元にあればメーカーに返品し、販売済みであれば告知する等の方法によって回収し、消費者に危害が及ばないようしていただきたいところです。