農薬混入事件で男が問われた「偽計業務妨害」「器物破損」はどんな犯罪?

アクリフーズ農薬混入事件の裁判が前橋地方裁判所で行われ8月8日、被告の男に懲役3年6月が言い渡されました。

アクリフーズ農薬混入事件の裁判で、被告人の男は偽計業務妨害罪と器物損壊罪の罪に問われていました。今回は、この偽計業務妨害罪や器物損壊罪がどのような罪なのかについて説明したいと思います。

 

■偽計業務妨害罪について

偽計業務妨害罪は、「偽計を用いて、人の業務を妨害した」場合に成立する罪です(刑法233条後段)。

偽計業務妨害罪が保護しようとしている利益は業務活動です。

「業務」とは、人の経済的な生活活動、人が社会生活を維持していく上で反復・継続して従事する仕事のことです。

「偽計」というのは、人を騙したり、誘惑したり、あるいは人が誤解したり知らなかったりする状況を利用する不正な策略をいいます。

要するに、偽計業務妨害罪は、不正な策略を用いて他人の仕事を妨害した場合に成立する罪です。

今回、被告人は、アクリフーズの工場内で冷凍食品に農薬を混入しているわけですが、農薬の混入した事実を他の人が知らなければ農薬の混入した冷凍製品が流通して工場が操業停止に追い込まれるのは必然であり、被告人は、この事をわかって計画的に行ったと考えられますので、「偽計」によってアクリフーズの業務を妨害したとして偽計業務妨害罪の罪に問われているわけです。

被告人は、流通するとは思わなかったと述べているようですが、通用しないでしょう。

偽計業務妨害罪に当たる場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」という形で処罰されることがあります。

 

■器物損壊罪について

器物損壊罪は、「他人の物を損壊」した場合に成立する罪です(刑法261条)。

器物損壊罪は、他人が所持する財産を保護するために、犯罪として刑罰が定められています。

ここで「損壊」とは、広く物本来の効用を失わしめる行為をいうとされています。

今回、被告人は、アクリフーズの冷凍食品に農薬を混入させているわけですが、これによってアクリフーズの冷凍食品は人が食べられるものでなくなるわけですから、食品本来の効用を失わしめたということができ、器物損壊罪の罪にも問われているわけです。

器物損壊罪に当たる場合、「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」という形で処罰されることがあります。

今回、被告人が行った行為は、アクリフーズを操業停止に追い込み計り知れない損害を与え、また社会に甚大な衝撃と影響を与えました。

そこで、被告人は、偽計業務妨害罪と器物損壊罪の併合罪であるとして、より重い偽計業務妨害罪の長期3年の1.5倍である「4年6月以下の懲役」のMAXが求刑されたわけです(刑法47条前段)。

 

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

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