新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言は日本の経済に大きな悪影響を与えました。生き残りを模索する企業なかには、派遣社員の契約を打ち切る「派遣切り」を行い、人件費を削減しようという動きがあるようです。
派遣切りは法的に許されているのか?
企業にとって派遣社員は「切りやすい存在」で、簡単に契約を打ち切るケースも多いようです。この点については、「おかしいのではないか」「派遣と正社員で待遇を分けるのはおかしい」という意見もあります。
今後新型コロナウイルスの悪影響が広がり、派遣切りが多々発生することが予想されています。このような「派遣切り」は法的に許されているのでしょうか?
法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
弁護士の見解は?
冨本弁護士:「法的問題はあります。派遣切りというのは、派遣先が派遣元との派遣契約を解約し、派遣元が派遣労働者との労働契約を一方的に終了させることです。
派遣元は、期間の定めのある労働契約の場合、やむを得ない事由がある場合でなければ、派遣労働者を解雇することができません(労働契約法17条)。
派遣切りの場合、派遣先と派遣元との派遣契約が解約されるわけですが、そのことだけでは「やむを得ない事由」があるとは言えず、派遣元は、他の派遣先の斡旋、休業手当の支給等、解雇回避の努力を尽くす必要があります」
一口に「派遣切り」と言っても、正当な理由が必要となります。また、派遣元は解雇回避の努力義務があるようですね。
被害者が戦うことはできる?
「解雇回避の努力義務はある」と言っても、ブラック企業のような会社は、そんなことを「お構いなし」に切ってくるケースも考えられます。派遣社員はこのような措置に異議を唱えることはできないのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
冨本弁護士「一定の違法派遣や偽装請負の場合、派遣労働者は、派遣先に対して直接の雇用契約の成立を主張することができます(労働者派遣法40条の6)。
違法派遣は、派遣が許されない業務での派遣や無許可業者からの派遣の場合等です。偽装請負は、形としては請負ですが、実際には就労先から直接指揮命令されていますので、労働者派遣法等の適用を受けるべき場合です。
こうした場合、派遣労働者は、派遣先に対して雇用契約の成立を主張できる場合があります。違法派遣や偽装請負から労働者を保護するための制度です」
戦っていこう
派遣切りの被害に遭ってしまった場合、泣き寝入りしてしまいがちですが、争う余地はあります。戦っていきましょう。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)