素人が出来心でという事案ならまだしも、プロが逃げるつもりで作り上げたスキームを崩すのは容易ではありません。
本日は、詐欺の事案で被害金を取り戻せたケースがあったので紹介しようと思います。
この詐欺の舞台ですが、なんとタクシーの中で行われました。
詐欺師はタクシーのお客さん、被害者は運転手さんです。
どんな状況だったかというと、詐欺師が乗車中に、運転をしていた運転手さんに対して、儲け話を持ち掛けたのです。
純粋な運転手さんは詐欺師の話を信じ込み、そのままお金を引き出して、数百万円を渡してしまいました。
しかし、その後は待てど暮らせど話が進まず、それどころか、追加のお金が必要であると言われる始末、そこで当職に相談に来ました。
詐欺の事案では、相手方の特定が難しいということがよく起こります。
要するに名前は偽名、電話は他人名義、住所はデタラメ、会社を名乗るが登記をしていないなど、こちらが把握している情報からでは辿れないことがよくあるのです。
ご相談のケースでも、名刺に記載された電話にかけても無関係な店舗に繋がるという有様で、相手方の特定は難しいという状況でした(なお、住所はレンタルオフィスでした。レンタルオフィスを利用している詐欺師、詐欺業者は多くおりますので、注意が必要です)。
ただ、ご相談のケースでは幸いにも、詐欺師が「まだ騙せている」と思いこんでおり、また、まだお金を取れるとも思っているようで、電話での連絡が来ていたのです。
そのため騙されたふりを相談者の方にはしてもらい、呼び出すことにしました。
後日、指定された喫茶店で、相談者の隣の席に陣取り、スマホでの録画と録音をしながら待つと、とてもふてぶてしい感じの詐欺師が来ました。
最初はリラックスさせるためか、笑いを交えながら、雑談をテンポよく進めていました。
そして、お金の話は自分からしません。
様子を窺っているのでしょうか。
そこで、相談者からお金の催促があった旨の話を振ると、思い出したかのように、詐欺話を話しはじめたのです。
お金の支払の場面となり、相談者が財布からお金を出し、詐欺師に渡そうとしたその瞬間、当職が「ちょっと待った」と割って入りました。
「そのお金何に使うんですか」という話から入り、名刺を渡したうえで、きっちり問い詰めました。
身分証明書を出してもらい、二つ持っていた携帯電話の番号を押さえ、支払済のお金を返金するよう迫りました。
詐欺師はあたふた話をしており、要領を得なかったので、警察へ行くかと促すと、必ず返金すると繰り返し、なんとか警察行きを避けようとしていました。
結局、その日は手持ちがなかったため、後日振り込みでという話になりましたが、個人情報を可能な限り取得し、動画という証拠を取っていたことが功を奏したのか、無事全額振り込まれていました。
このように詐欺の事案では、かなり激しいことをしなければ被害金が返ってこないケースが多くあります。
全てこのようにうまくいく訳ではありませんが、少なくとも書面を送るとか、電話をかけるとかだけで回収するのは難しいと思います。
冒頭に申し上げたとおり、残念ながら詐欺の被害金について、返還を受けることは簡単ではありません。
大事なお金を払うわけですから慎重になるに越したことはありません。
ご不安をお感じなられたら、速やかに専門家にご相談ください。
*執筆弁護士:若井 亮(若井綜合法律事務所。「迅速対応」「分かりやすい説明」「徹底した報告」をモットーとしている。不当要求への対応、詐欺被害への対応を多く経験している)
*画像はイメージです(pixta)