最近、台風や地震などの自然災害で、会社から家に帰れないという状態になることがあります。このような場合、会社の対応は様々で、ホテルを確保するケースもあれば、社内に置かれた寝具をりようさせるなどしているところもあると聞きます。
労働者としては業務などの会社事由や、自然災害の影響で帰宅が困難になった場合、当然宿泊先を確保してもらいたいもの。しかし、実際のところそのような対応をしてくれる会社は少ないようです。
なぜ対応が分かれているのか。本来なら、ホテルなどを確保するべきはないのか?琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
必要を負担する必要は?
川浪弁護士:「労働契約上、会社(使用者)は労働者に対して賃金を支払う義務を負い、労働者は会社に対して労務を提供する義務を負っています。このうち、労働者の労務提供義務については、労働者が会社・事務所所在地に赴いて履行しなければいけない「持参債務」(民法484条)にあたると解されており、通勤に要する費用は労務提供という債務の履行のための費用として、原則として労働者が負担しなければなりません(民法485条)。
したがって、自然災害などで帰宅困難となったためにやむなくホテルに宿泊したとしても、会社が労働者にホテル宿泊を命じた等の特段の事情がない限り、会社がその費用を負担しなければならないものではありません」
例外もある
川浪弁護士:「もっとも、個別の労働契約(労働契約書)や就業規則、賃金規程において通勤に要する費用は会社負担と規定されている場合には、例外的に通勤に要する費用を会社が負担しなければなりませんし、台風などの自然災害で帰宅困難となった場合にはホテル代やタクシー代を会社が負担する旨規定されている場合も、同様にその費用を会社が負担することになります。
一般的に、通勤交通費については会社負担と定められていることが多いといえますが、自然災害で帰宅困難な場合のホテル代やタクシー代負担についても明確に定めている場合は少ないと思います。
規定がない以上、帰宅困難時のホテル代やタクシー代は労働者が負担することになりますが、これを徹底すると労働者のモチベーションが低下する可能性は相当大きいと思いますので、会社は状況に応じて柔軟に対応するのが無難ではないかと思います」
柔軟な対応を
台風や地震など自然災害の場合は緊急性が高いうえ、先行き不透明なことが多く、社員は不安を覚えます。法的に原則としては会社が宿泊費を負担しなければいけないという義務はありませんが、社員のことを考えたうえで、柔軟な対応が望ましいといえますね。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)