会社員の皆さんのなかには、遠方への出張を日常的に行っている人も多いのではないでしょうか。なかには朝会社に出勤し、そのまま会社から出張へと出かけることもあると聞きます。
出張族から相談が
そんな出張族と思われる会社員杉山さん(仮名)から相談が寄せられました。杉山さんは出張中の勤務時間を巡って、会社の対応に不満を持っているそうです。
具体的にいうと、杉山さんは朝9時に会社に出勤。午前中通常勤務した後、13時になり突然出張依頼を受けます。嫌々ながらも了承した杉山さんは、準備のため14時に会社を出て、一度会社に戻りました。そして出張の準備を行い、18時の飛行機で広島県のホテルに向かい、深夜に到着しました。
出張時間が勤務時間外に
出張を終え出勤してみると杉山さんはあることに気が付きます。広島県に向かった日の勤務時間が14時までとなっており、家に帰り飛行機で移動した時間が勤務時間外となっていました。
杉山さんは総務部に「こんなのおかしい。頼まれて出張に行ったのに酷い扱いだ」と憤慨し、抗議します。しかし総務の答えは、「問題なし。出張時間は勤務時間に含まない」というものでした。
あまりにも配慮のない杉山さんは会社を辞めることも辞さずに抗議を続けていますが、「出張時間は勤務時間に含まない」という措置が法的に認められるものなのかわからず、弁護士の見解を聞いてみたいそうです。
そこで法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
措置は合法?
冨本弁護士:「結論から言いますと、出張の移動時間を労働時間としないことに問題はありません。しかし、出張の移動時間のうち、所定労働時間と重なる時間分(仮に所定労働時間が18時までとすると14時から18時までの4時間分)の賃金を支払わないということであれば問題があります。
「労働時間」は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。出張の移動時間は、労働者がある程度自由に使えますから、通常、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえず、「労働時間」ではありません。
出張の移動時間が「労働時間」に当たらないとすると、その時間分の賃金を支払わなくてもいいように思えるかもしれません。しかし、出張の移動時間に働けないのは、使用者が労働者に出張を指示したからです。使用者が労働者に出張を指示しなければ、労働者は所定労働時間働いたはずで、その分の賃金が支払われないというのはおかしな話です。
したがって、出張の移動時間のうち、所定労働時間と重なる時間分の賃金については支払う必要があります(民法536条第2項、624条の2第1号)」
弁護士への相談を
杉山さんにも交渉の余地はあるようです。このようなことは、労働法に精通した弁護士でないとわからない部分があります。費用の問題もありますが、弁護士に相談した上で今後の対応を決めることが、ベターな対応です。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)