ファストフード店でアルバイトをしている学生Nさんは、恋人はいませんがクリスマスイブはパーティーが入っており、シフト作成の段階で休みを申請していました。ところが「独身で恋人がいない者は出てほしい」と言われ、仕事になってしまったそう。
店は「恋人のいる人は休み・いない人は出勤」という方針で、事前に「恋人の有無」を確認され、「素直に答えてしまった」とのこと。そして半ば強制的に仕事を入れられてしまいました。Nさんは「差別だ」と怒っており、辞めることを考えています。
「クリスマスだから」という理由で恋人の有無を尋ね、「いない人間は出勤」させる行為は、差別的で理不尽な扱いのように思えます。法的な問題はないのでしょうか?
琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
Q.クリスマスのシフト調整で、独身者は「交際相手のいない人は出勤、いる人は休み」という措置があり、恋人の有無を聞かれた挙げ句出勤させられた。これは法的に問題ないの?
A.違法になる可能性がある
川浪弁護士:「前提として、労働契約や就業規則において、アルバイトのシフトの決定方法について、どのように定められているのかがポイントになります。この点について、労働者がシフトを決定できる(勤務希望日を決定できる)という内容になっている場合には、会社が上記措置を取ったとしても、労働者に応じる義務はないということになります(上記措置が違法かどうかを論じるまでもありません)。
ただし、このような場合はレアケースだと思われ、大抵の場合、シフトについての決定権は使用者にある旨、定められていると思います。
シフトの決定権が使用者にある場合、アルバイトのシフトを決定して出勤を命じることは、使用者の業務命令権の行使になり、労働者は、原則として使用者の業務命令に従わなければなりません。しかしながら、権利行使の目的・動機、態様、相手方(労働者)が被る不利益の程度などの事情から判断して、当該業務命令権の行使が権利濫用と評価される場合には無効であり、従わなくても業務命令違反とはなりません(労働契約法第3条5項)。
この点に関し、本件では、①独身者か否か、②交際相手がいるか否か、という2つの判断基準に基づいてシフトを決定し、出勤を命じるということですが、①はさておき(使用者は、社会保険の扶養の有無を判断するにあたって配偶者や子の有無を使用者が把握していると思われます)、②の交際相手がいるか否かという判断基準を用いるにあたっては、使用者が労働者に交際相手の有無を尋ね、労働者に申告義務を負わせることが前提となります。
しかし、これは、労働者のプライバシーに対する配慮に欠ける上に、セクシャルハラスメントに該当し得るため、違法と評価される可能性があり、その結果、かかる申告義務を負わせることを前提としたシフト決定及び同シフトに基づく出勤命令が権利濫用として、無効と評価される余地があるといえます。結論として、使用者は、このような基準を用いてシフトを決定することは避けるべきであり、クリスマスの出勤者を確保するにあたっては、時給を上げるなどの好条件を提示して出勤希望者を募ることが無難であると考えます。
なお、上記のような違法なシフト決定に基づく出勤を命じられ、拒否しても使用者が承認しない場合には、労働基準監督署や弁護士に相談することを検討すべきでしょう。しかし、弁護士に相談・依頼するとなれば一定の費用が発生するため、かかる方法は費用対効果という観点からは現実的ではなく(出勤拒否を理由に解雇されたり、不当なパワハラを受けるようになった場合は別ですが)、労働基準監督署に相談することが現実的な方法ではないかと思います。」
Nさんのような事例はレアだとは思われますが、クリスマスに限らず差別的なシフト調整を受けることは多々あります。耐えきれないと感じた場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)