実態は社員なのに「業務委託契約」を結ばされた…これって許される?労働基準法的にはOKなの?

2018年10月、娘が自殺したのは経営者のパワハラが原因であるとして、遺族がアニメ・ゲームの製作や求人サイトを運営するB社に慰謝料と未払い賃金約8,864万円を求め提訴したことが話題になりました。

B社は容疑を否認しており、真実はこれから裁判で明らかになるものと思われますが、原告側が語った被害者の勤務状況は「奴隷契約」といわざるを得ないものでした。

社員に「業務委託契約」を結ばせる

「賃金を払わない」「事務所に住まわせる」「食事を与えない」など、社員が強いられていた労働環境はかなり厳しいものだった様子。その温床となったのが、入社した社員に対し「業務委託契約」を結ばせたことだったといわれています。

実態は社員だったものの、名目上「業務委託先の人間」とすることで、「労働基準法の規制から逃れようとしていたのではないか」と見られています。このように新卒で入った社員に「業務委託契約」を結ばせることは、法的に許されるのでしょうか?銀座さいとう法律事務所齋藤健博弁護士に見解をお伺いしました。

 

「業務委託契約」への切り替えは許されるのか?

齋藤弁護士:「社員、という契約形態が雇用契約なのかどうかによりますが、雇用契約を締結した使用者と労働者の間には、例えば使用者が実質的には解雇をした上で、外部への業務委託契約に切り替える局面では、解雇が実は適法になされていないことはよくあります。

例えば、雇用契約を締結していると労働基準法の規律が働くので、これが不便だと感じた場合には請負契約に切り替えてしまうことがあります。法律上は偽装請負などと整理されることが多い局面ですね。

ご指摘の法人は、アニメやゲーム、漫画などの著作物を扱う業界のようですが、このような成果物がすべてだと考えられがちですので、そもそも雇用契約を締結していたのか、それとも元より請負契約の側面であったのか確認されるべきでしょう。」

社員を「業務委託契約」とすることは、必ずしも違法とは言い切れないようです。

 

「業務委託契約」は労働基準法が適用されない?

そうなると気になるのは、「業務委託契約」として会社で働く人間に労働基準法は適用されないのか、という点です。適用されないとなると、憤りを感じてしまうのですが…。銀座さいとう法律事務所齋藤健博弁護士に聞いてみると…

齋藤弁護士:「これは法律論としても著名なものです。業務を委託されたものが、支配従属関係にある労働者であると認定されるのであれば、労働基準法の適用があり得ます。これは総合判断になじむ性質のもので、一件一件見ていくほかありません。

労働内容に裁量があるのか、指揮監督の強度はどうか、勤務場所・夜勤時間はどうか、会社の負担による労働環境が与えられているのか、源泉徴収されているのか、労務に対する対価は労働契約に順ずるものか、一個一個見ていくしかないでしょう。」

労働基準法が適用されるか否かは、勤務状況などを総合的に考慮し、判断されるのですね。

 

打診を受けた場合はどうすればいい?

労働者としては、経営者から「業務委託契約にしたいと言われるのではないか」と心配になってしまいます。仮に打診された場合どうすればいいのでしょうか?

銀座さいとう法律事務所齋藤健博弁護士に見解をお伺いしました。

齋藤弁護士:「業務委託契約の内容を確認すべきです。現在の状況より不利益なものを多く含んでいるのであれば、拒否する対応があり得ます。あまり知られてはいないのですが、実は、有期労働契約が更新され通算5年を超過すると、「無期転換ルール」といって、有期労働契約を無期のものにするよう、申し込むことが権利として承認されています。これを用いることが一つの手段として考えられますね。」

業務委託契約の打診については、不利益を被る場合には拒否しても問題ないとのこと。嫌な場合は拒否できるのですね。

 

断固とした態度を

経営者の裁量は大きなものですが、労働者に不利益を与えるような契約は許されません。B社のように強い権力を持つ経営者からのパワハラによって洗脳を受けてしまうと、冷静な判断ができず、言いなりになってしまいます。

そのような場合は速やかに拒否する、その場から逃げる、弁護士に相談するなどして、身を守るようにしましょう。

 

*取材協力弁護士: 銀座さいとう法律事務所 齋藤健博弁護士(弁護士登録以降、某大手弁護士検索サイトで1位を獲得。LINEでも連絡がとれる、超迅速弁護士としてさまざまな相談に対応。特に離婚・男女問題には解決に定評。今日も多くの依頼者の相談に乗っている。弁護士業務とは別の顔として、慶應義塾大学において助教も勤める。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

齋藤健博 さいとうたけひろ

銀座さいとう法律事務所

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