昨年はハリウッドでのセクハラ・パワハラが報道され話題になりましたが、日本の芸能界でもこのようなことはあるといわれています。テレビを観ていると、特にお笑い芸人などは「それってパワハラでは!?」とハラハラするような言動があることも。
通常、一般企業内でのセクハラ・パワハラは、雇用主に対して責任を問うことなどができますが、芸能人の所属する芸能事務所内ではどうなるのでしょう?
社労士の資格もお持ちである、センチュリー法律事務所の小林洋介弁護士にお聞きしました。
■芸能人って普通の会社員と違うの?
まず、芸能人は普通の会社員のように事務所に雇われているのでしょうか?
小林弁護士「芸能人と芸能事務所との契約は、一般には、『専属マネジメント契約』とか『専属芸術家契約』と呼ばれています。事務所が仕事の獲得、スケジュール管理、著作権管理などを引き受け、芸能人が芸能活動を提供するという、一種の業務提携契約と考えられています。
これは、両当事者が独立した事業者であることを前提としています。報酬も、事務所がテレビ局などから受け取る報酬を分配するなど、歩合制の場合が多く、一般の労働者とは違います。
専属マネジメント契約については、事務所が芸能人に対して実態として指揮命令しているとして、労働契約に該当するかについて争った事件もあり、裁判例も割れているようですので、一概に一般企業と同じ扱いとは言えません。
ただ、報道によると、厚労省が2016年11月に日本音楽事業者協会などの業界団体に送った文書には、『芸能人も労働者として扱い、雇用契約とみなすこともあり得る』という認識が示されていたとのことです。
『事務所と芸能人との契約関係がどうであったか、実態から判断すべき』という考え方が示されたということだと思います。」
■労働契約法は適用外だけど…
たとえば芸能人が事務所の先輩などにパワハラされた場合、事務所に訴えればちゃんと対応してもらえるでしょうか?
小林弁護士「事務所と芸能人との契約が労働契約でないとすると、労働契約法上の職場環境配慮義務(労契法5条)の問題が生じません。むしろ、独立した事業者間のトラブルという問題となります。
しかし、後輩である芸能人も先輩の芸能人も、同じ事務所と専属マネジメント契約を締結しているとすれば、先輩芸能人の行動は、事務所の所属タレントに対する加害であり、事務所に対する損害を生じさせる点もありますので、芸人・芸能人からその点を主張して、事務所に対応させることも考えられます。」
企業と会社員のような労働契約を結んでいないため、労働契約法上の責任を問うことはできませんが、それとは別の切り口で事務所に対応を求めることはできそうです。
■法律で守られないわけではない
芸能人という働き方に労働基準法は適用されますか? 労働環境が悪かった場合、労基署へ相談などできますか?
小林弁護士「労働基準法上の労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下事業という)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう(労基法9条)とされています。
そうだとすると、一般には芸能人は『労働者』とはみなされないと考えられます。しかし、上記のとおり厚労省は芸能人の労働者性に重大な関心を寄せていますので、労基署に相談することは可能だと思います。」
それでは、芸能人が労働組合を作ることは可能でしょうか?
小林弁護士「労働基準法上の『労働者』と労働組合法上の『労働者』とは、定義が若干異なります。労働組合法上の労働者とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいうとされています。
したがって、芸能人が労働組合を作ることも可能と思われます。現に、個人事業主とされている野球選手には、『日本プロ野球選手会』があり、これは労働組合と認定されています。」
普通の働き方とはずいぶん違う、芸能人という仕事。しかし、だからといって法律で守ることができないわけではありませんし、組合などを作り、労働環境改善を求めることも可能なのですね。
著者:センチュリー法律事務所 小林 洋介弁護士(一つ一つのご相談には個性があり、解決策もさまざまです。それぞれのご相談の事情や時代の変化に応じて、既存の解決策にとらわれず、新しい解決策を常に模索し、提案し続けていきたいと考えております。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。