全然違う! 物件が事前の提示条件と違う場合契約を無効にできる?

3月に入り、新入学・新入社のため住み慣れた場所を離れ、新しい土地で生活を始めた人も多いことでしょう。物件を探す際には不動産仲介業者とともに、内見をしたうえで居住を決めたのではないでしょうか。

また、分譲マンションや一戸建てを購入し、文字通り落ち着いた生活を始める人も多いはずです。

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

 

物件探しで失敗するケースも

物件を探す場合、業者にある程度の「条件」を提示するもの。「静かなところ」「駅から近いこと」など、様々な条件を満たすものを探すはず。ほとんどの場合、納得した部屋に住んでいるものと思われますが、なかには「話が違うじゃないか」と叫びたくなるようなこともあります。

とくに多いのが、騒音問題。「静かなところ」を希望したにもかかわらず、上階や下階、左右部屋から音が漏れてくるケースや、周辺の工場などからひっきりなしに爆音が聞こえるということがあるようです。

提示した条件と実際の場所が全く異なっていた場合、物件を紹介した不動産仲介業者に契約の無効や損害賠償請求などを行うことはできないのでしょうか?

あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士に見解を伺いました。

 

■契約の無効や損害賠償を請求できる?

「仲介業者に「静かな場所」と伝えて紹介された部屋が実際にはうるさかったという場合,契約の無効を主張したり,損害賠償を請求したりできる可能性があります。

不動産仲介業者(宅建業者)は,宅建業法によって重要事項を説明する義務を負います。この重要事項は法律で決まっていますが(宅建業法35条),住環境が静謐であることや日照・眺望に関する事項は含まれていません

ですが,重要事項に該当しない事柄であっても,説明義務を負うことがあります。仲介業者は,民法上,「善良な管理者の注意」をもって不動産の売買や賃貸の仲介をしなければならない義務(善管注意義務)を負っています(民法656条,644条)。この義務の一環として,説明義務を負っています」(高野倉弁護士)

 

■説明義務違反は個別の事情によって異なる

「何を説明しなければ説明義務違反になるのかは,個別の事情によって異なります。静謐な住環境を売りにしている物件や買主・借主が「静かな場所」を第一の条件にしていることを仲介業者に伝えていた場合,その説明に齟齬があれば,説明義務違反が認められやすくなるでしょう。

説明義務違反があった場合,買主・借主は,仲介業者に対して損害賠償を請求することができます。
損害賠償を請求できる金額(範囲)も個別の事情によって異なりますが,説明義務違反の程度が大きい場合には,既に支払った売買代金や賃料と同額の損害賠償が認められる可能性もあります。
仲介手数料相当額についても,損害として賠償を請求する事ができます」(高野倉弁護士)

 

■売買や賃賃借契約を解除することはできない

「売買契約や賃貸借契約それ自体を解除したり,なかったことにしたりする(錯誤無効を主張する)ことはできません。説明義務違反をしたのは,あくまで仲介業者であって,売主・貸主ではないからです。

ただし,仲介業者が,買主・借主の代理人として契約をした場合には,説明義務違反を理由として売買契約・賃貸借契約それ自体を解除したり,それらの契約をなかったことにできる(錯誤無効を主張できる)可能性があります。

錯誤無効が認められるためには,「静かな場所」を契約の必須の条件にしていると仲介業者に伝えていたことが条件になります。単に「私はそう考えていた」「伝わっていると思った」というだけではダメです。

この理屈は裁判例で認められてきたものですが,2020年4月1日から施行される改正民法では,このことが明記されました(改正民法95条2項)」(高野倉弁護士)

 

■証拠が残るよう条件を伝えるのがベスト

「いずれにせよ,仲介業者の責任を追及するためには証拠が必要となります。条件を伝えるときは,メールで伝えるなど,後々に証拠となる方法を利用することが賢い方法です。

人間は,一度「買いたい」と思ってしまうと,メリットばかりに目がいって,デメリットについては過小評価してしまう傾向があります。「買いたい」という思いを自分自身に納得させるためです。「いいな」と思ったときほど,立ち止まって考えて,覚書を作成するなどして逐一確認をしてから決断をするべきです。

賢い仲介業者は,ごまかしは結局高くつくことを認識しています。「こういうデメリットはある。でも,それを補うものがある」と正面から誠実に説明をすることが,信頼を勝ち取り,トラブルを防ぎ,継続的な利益に繋がることを知っているのです」(高野倉弁護士)

不満のない物件と巡り合うことがベストですが、なかには不満を感じてしまうようなこともあります。不測の事態を避けるよう、条件を伝える際は「証拠」を残すようにしましょう。

 

*取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

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