営業職では、「接待」も重要な仕事であると考えられています。とくにゴルフは重要なコミュニケーションツールと考えられており、入社後会社から「ゴルフを始めるように」と命令されることもあると聞きます。
営業前提の「接待ゴルフ」は、いわば「業務の一環」。本来なら平日の就業時間中に入れるべきものですが、日曜日など休日に入れられることもあります。
休日なのですから、予定があれば断ることができるはず。しかし会社によっては「ふざけるな、休日でも仕事につながることをしろ」などと、恫喝されることもあるようです。
仮に外せない私用があるにもかかわらず、接待ゴルフ参加を強要された場合、拒否できないのでしょうか?
星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に、今回の件についてお聞きしました。
■いやいやながらの接待ゴルフ参加程度ではパワハラや休日出勤にならない
「ゴルフ人口は減少し続けていますが、“接待ゴルフ”は現在でも重要な営業ツールであるかと思います。
接待ゴルフやコンペは休日に行われることがほとんどですので、多くの場合は自らの意思でお得意先との接待ゴルフに行っているでしょうが、今回は、ご質問のような自由参加と言いつつも半ば強制的に取引先等との接待ゴルフに行くよう上司から指示・恫喝された場合、パワハラや休日出勤にならないかという点についてお答えします。
接待ゴルフは取引先に対してかなり気を遣うものではありますが、原則として上司や役員の指揮命令・監督下にあるわけではありませんので、パワハラや休日出勤(労働時間)には該当しないとされています。
もっとも、あくまで“原則”なので、上司からの業務命令としてゴルフに参加するよう指示された場合には休日出勤に該当しますし、参加を拒否した場合に“おまえは絶対に昇進させない。人事評価を下げてやる”などと脅された場合にはパワハラに当たるといえます。
まとめると、接待ゴルフ参加が業務命令でなければ(事実上の不利益の有無はさておき)参加を拒否することは可能です。他方、業務命令として支持された強制的なものであれば基本的に従わなければなりませんが、その代わり休日出勤手当が支給されたり代休が付与されたりしなければなりません。
しかし、“ゴルフに参加しろ”という指示がメールや書面で下されることはまずあり得ませんし、後に接待ゴルフに行かなかったから昇進できなかったという因果関係を立証することはきわめて困難です。そして、接待ゴルフへの参加を強要されたことの一事をもってその会社を辞めたいと思わない方も多いでしょう。
したがって、折衷案ではありますが、後に退職や転職する可能性があるときは、接待ゴルフへ行くよう依頼・指示されたことを録音しておくことが有効といえます」(木川弁護士)
■接待ゴルフのために購入したゴルフ用品やプレーフィーは経費となるか
「なお、(いやいやながらも)接待ゴルフ参加自体は承諾したとしても、接待ゴルフのために購入したゴルフ用品やプレーフィーが自腹になるのは避けたいと考える方もいるでしょう。
この点についても、残念ながらすべてを経費として会社に申請できるわけではなく、上司から“大事な取引を兼ねるから参加してほしい”として業務命令またはそれに準じる形で依頼されたり、そのゴルフのときに実際に契約を取り付けることができたりした場合等、業務関連性が認められる場合にプレーフィーや飲食代を経費として申請できるに留まります。
他方、ゴルフセット購入費用や前泊の宿泊費等は難しいといえます。接待ゴルフといえども、やはりレジャーの要素が含まれているのが弱みです」(木川弁護士)
「接待ゴルフを強要されたことに関して違法性を主張できるか」については、ケースによって扱いが異なるようです。そのようなことに悩んでいる方は、弁護士に相談してみましょう。
*取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野・長塚・木川法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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