不動産オーナーの皆様は、迷惑な賃借人に頭を悩ませていることもあるかと思います。
使用目的を定めていたにもかかわらず目的と異なる使いかたをされていたり、毎晩遅くまで騒いで近隣の迷惑になっていたりといったことから近隣トラブルに発展するケースもあります。
やめてもらうよう注意しているのに聞く耳を持たない賃借人とはもう縁を切りたい、そう思うこともあるでしょう。
このような用法違反の場合に、賃借人に部屋から出て行ってもらうことはできるでしょうか。今回は、ペット禁止としていたのに賃借人がペットを飼っていた場合を例に考えてみましょう。
■賃貸借契約を解除する場合の特殊性
賃貸不動産から賃借人に出て行ってもらうためには、賃貸借契約を解除する必要があります。賃借人が同意してくれれば良いですが、同意してくれなかった場合には、法律上の解除原因がなければ契約を解除することはできません。
例えば、賃貸借契約にペットの飼育を禁止する特約を付していた場合に、賃借人がその特約に反してペットを飼育していたとすれば、用法違反として法律上の解除原因があるといえるでしょうか。
実は、用法違反があったとして直ちに賃貸借契約を解除することができるかというと、そう簡単にはいきません。
実際、ペット飼育禁止の特約付きで賃貸借契約を締結し、賃借人がペットを飼育したものの、賃貸借契約の解除が認められなかった事案があります。なぜでしょうか。
実は、賃貸借契約を解除するにあたり、「賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情」がある場合には、契約解除は認められないのです。
賃貸借契約は、売買契約等と異なり、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約なので、賃借人に用法違反があったとしても、当事者間の信頼関係が維持されているのであれば、契約の基礎が残っている以上、解除によって賃借人の利用権を妨げることはできないのです。
■契約解除が認められない場合とは?
例えば、賃借人が犬を飼っているケースで考えてみましょう。
部屋内に犬の小屋があり、食事や排泄物の処理についても訓練が行き届いていて、悪臭や泣き声もほとんどなく、建物内の柱や畳等が汚れたり損傷したりしておらず、賃借人もその犬を最後に飼育を打ち止めすることが確実視されるような場合には、賃貸人にとって不利益が多いというわけではありません。
このような場合には、そのような犬を飼ったからといって直ちに賃貸借契約の解除が認められない可能性があります。
元々、ペット禁止特約の目的は、賃借人がペットを飼うことによって不衛生になったり、近隣住民に迷惑になったりすることで、賃貸人としても不利益を被るので、このような賃貸人の不利益を防止する点にあります。
したがって、先ほどのような事情がある場合には、ペット禁止特約の目的を害する程度が小さいので、信頼関係を破壊するおそれがあるとまでは認められない可能性があるのです。
■場合によっては賃借人の主張に備えて弁護士に相談を
「信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情」については、それが存在することを賃借人が主張立証する必要がありますが、そのような事情を基礎付ける積極的事実とその評価を障害する消極的事実との総合評価によって決まるので、賃貸人としても信頼関係が破壊されたという事情を主張できるよう準備する必要があります。
迷惑な賃借人に部屋から出て行ってもらいたいオーナーさんとしては、弁護士に相談し、そのような事情をあらかじめ調査するのが良いでしょう。
*著者:宮前豪(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。離婚問題から企業法務まで幅広く精通。)
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*YAMATO / PIXTA(ピクスタ)
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