4月5日、兵庫県西宮市に住む86歳の女性が、近所に住む61歳の女性会社員に対し、「嘘つきババア」などと繰り返し叫んだとして、県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されたことが判明。
警察発表によると、今年1月から2月中旬まで被害者の女性に対し「嘘つきババア」、「謝れ」などと罵声を浴びせ続けたといいます。動機については、7年前に被害女性が自治会長時代にごみ収集場所を自宅前に移設したからだそう。
相談を受けた警察が加害女性に何度も注意したものの、罵声を浴びせ続けたため、逮捕に踏み切ったということです。このように「悪口」を言い続けて逮捕されることは、かなり異例といえます。
なかには「自分も人の悪口をよく言ってるし、逮捕されてしまいそう……」などと不安になっている人もいるかもしれません。どこまでが許容範囲で、どこからが法に触れるのでしょうか?
■悪口はどこまでいくと法に触れる?
今回の事件の場合は兵庫県迷惑防止条例に「著しく粗野又は乱暴な言動をすること」を禁止しており、これに反しているための逮捕ということになります。
「悪口」ということになると、「名誉毀損罪」を連想することでしょう。名誉毀損は、社会的評価の低下をもたらすものであれば成立するとされています。
しかし、相手を貶めるような言葉を浴びせ続けた場合といっても、本人が気分を害することはあっても、必ずしも社会的評価の低下まであるわけではありません。程度問題ではあるものの、名誉毀損罪とはならないことも多いことでしょう。
侮辱罪という罪もあり、これに当たるのではないかと考える方もいるでしょう。
しかし、侮辱罪の保護法益も人の外部的名誉であると考えるのが一般的であり、つまり、社会的評価の低下がある場合に成立し、感情を害したから成立するというものではありません。この点は、一般の方のみならず警察官も含めて誤解している場合が多いと感じます。
そうすると、名誉毀損と侮辱はどこで区別するかですが、事実摘示の有無によって区別することになります。たとえば、
・「Aさんは女性の胸を揉んでいた」
・「Aさんはいやらしい」
という例を挙げるとすれば、前者は「女性の胸を揉む」という事実があるのに対して、後者にはそれがない、という形で考えます。そのため、前者であれば名誉毀損、後者であれば侮辱により検討するということになります。
このように、一言で「悪口」といっても、その行為の性質や程度によって、適用できる法律が異なり、また、民事上の問題と刑事上の問題という点でも考え方が異なります。
仮に自分の悪口を言われていて困っていると感じ、名誉毀損での提訴を考えている場合は、弁護士に相談したほうがいいかもしれませんね。
*記事監修弁護士:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*hirokoji / PIXTA(ピクスタ)
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