ここ数年、日本は空前の猫ブームといわれており、巷には猫の本や猫グッズが溢れています。外を歩いていて猫に出会うとつい近寄りたくなるという猫好きな方も多いのではないでしょうか? 外で保護した猫を飼っている方も多くいます。
しかし、外で保護して飼い始めた猫が野良猫ではなく本当の飼い主がいる迷い猫だということもありえます。このようなケースでの猫の所有権について、三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお聞きしました。
■所有権はどちらにある?
野良猫を飼い始めて数年後、元の飼い主が現れ「返してほしい」と言われた場合、法的には猫の所有権はどちらにありますか?
「法律上、“家畜以外の動物”であれば、飼い始めるときに“他人が飼育していたもの”であると知らず、かつ、その動物が飼い主のもとを離れたときから1カ月以内に飼い主から返してくれと言われなかった場合は、権利を取得することができます(民法195条)。
ただし、この“家畜以外の動物”とは“人の支配に服さないで生活するのを通常の状態とする動物”を指すと解されており、猫はこれには当たらないと考えられます」(伊東弁護士)
まず、法的には猫は家畜ではありません。法律では「ペット」を定義しておらず、「物」として扱います。このことから、このケースで所有権について根拠となるのは動物に関する法律ではなく、遺失物法ということになります。
「猫に限った話ではありませんが、拾った物を遺失物として警察に届け出たが遺失者が分からない。そんな場合には、警察が公告の手続をとり、3カ月以内に所有者が判明しなければ拾得者が所有権を取得できます(民法240条、遺失物法)。
この手続をとっていれば、数年後に元の飼い主が現れても、所有権は現飼い主にあるといえます」(伊東弁護士)
この手続を取っていなかった場合は、所有権は元飼い主のままと考えることができます。ただし、所有権の時効取得を定めた民法162条にもとづき、現飼い主が所有権を取得できる可能性もあるそうです。
しかし、民法162条には「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有」、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と、善意無過失で他人の物の占有を開始」などの条件があるため、このケースで考えるとあまり現実的ではありません。
実際には、遺失物の手続きをとっていれば所有権は現飼い主、とっていなければ所有権は元飼い主ということになりそうですが、解釈が難しいところです。後の紛争を避けるためには、猫を拾った時点できちんと手続をとっておくのがよいと考えられます。
「なお、『拾ってください』と書かれた段ボール箱に入れて置かれていたなど“捨て猫”であることが明らかな場合は、民法239条1項の“所有者のない動産”(所有者が所有権を放棄した)と考えられ、自ら飼おうと思って飼い始めたときに所有権を取得することが可能となります」(伊東弁護士)
■飼うつもりなら必ず警察で手続きを!
ところで、もし話し合いなどの結果、猫を元の飼い主に返すことになった場合、世話をしていた期間の餌や病院などの費用を請求することはできますか?
「費用の請求は可能と考えられますが、そのためにも、きちんと前述の手続をとり、3カ月間は“現れるかもしれない元の飼い主のために預かっている”という形を明確にしておくことが望ましいと考えられます」(伊東弁護士)
元の飼い主に費用を負担してもらうことはできそうですが、共に暮らし愛情を注いだペットとの別れはつらいものです。猫を拾ったらまずはしっかり飼い主を探すこと、そして飼う場合は所定の手続きをとることが大切です。
また、飼い猫がいなくなってしまった場合もすみやかに警察や動物愛護センターに連絡しましょう。猫を「物」として扱うのは違和感があるかもしれませんが、法律的には、財布を落としたり拾ったりした場合に警察に届けるのと同じことなのです。
*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。
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*Malcon / PIXTA(ピクスタ)
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