人という字は人と人が支え合ってできている、なんて昔から言われておりますが、「誤発注しました! 助けて!」と言われると何とかしてあげたくなるのが人情というもの。
でもそんな人情を逆手にとって売上を積み増してやろう……そんなけしからん目論見に乗っかってしまった場合どうすればよいでしょうか。
■誤発注が嘘だったら購入者は返金を求めることができる?
物を購入しようとする際、書面がなくとも、人は売買契約を締結します!という意思表示をしているということになります。
しかし、その売買契約締結の意思表示に誤解がある場合で、(1)誤解がなければ意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ(2)意思表示をしないことが一般取引上の通念に照らしてもっともだと認められるような場合には、その意思表示の要素に錯誤があったとして無効とされます(民法95条本文)。
具体的には、Aという商品を買うつもりでBという商品を購入してしまったような場合です。
ただし、その錯誤の中でも、意思表示はあるものの、売買契約締結の意思を形成しようとする動機に錯誤があるにすぎない場合、たとえば先の例と異なり、Aの商品を買うという意思自体に誤りはないものの、Aを買おうと思った動機に錯誤があるような場合には、ただちに錯誤無効が適用できるわけではありません。
この「動機の錯誤」については、判例上、基本的に意思表示の要素ではないことから、その錯誤があっても要素の錯誤には当たらないとされますが、動機が相手方に表示された場合には、動機の錯誤が要素の錯誤になったとして、無効となり得るとされています。
今回の件では、「その商品を購入しよう」という意思自体に誤りはありませんよね。
しかし、そのきっかけが「誤発注で大変な思いをしていてかわいそうだから」ということにある場合、それはまさに「動機の錯誤」に該当します。
とすると、上に述べたように、判例上はその動機が相手方に表示された場合に限り、無効ということになり得るため、そのような表示がない場合には、無効を主張できないことになります。
これに従うと、本事例では、「誤発注でお店が大変そうだから」と購入の動機をお店側に表示した上で購入をした場合に限り錯誤無効の主張ができ、結果として無効になった場合には、その返金を求めることはできるでしょうが、それ以外は難しいかもしれません。
なお、個別の売買契約の締結に向け、誤発注であること誘因材料として売買契約をさせた場合には、詐欺取消(民法96条1項)により取消しが可能になる場合があり得ると思います。
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