■この「誤発注商法」はどのような罪になる?
誤発注という事実をもって「騙された!」という方もいそうですので、詐欺罪が成立するのか、という観点から検討しましょう。
詐欺罪は窃盗罪などと同じく財産に対する罪ですが、その財産的損害をどのように考えるかが問題です。
つまり、たとえ誤発注であっても1,000円相当の商品を1,000円で購入をしているような場合には、「獲得しようとしたもの」と「給付したもの」は等価値とみることもできます。
他方、誤発注という虚偽の事実の告知がなければ、購入することはなかったというのであれば、購入者は1,000円という財産上の損害を受けたということもできそうです。
このことは、つまり財産上の損害を形式的に捉えるのか実質的に捉えるのかという問題として整理されますが、裁判例は、基本的に形式的な損害があれば詐欺罪の成立を肯定しつつ、実質的な財産的損害がない場合には詐欺罪の成立を否定するものもみられます。これらからすると、少なくとも詐欺罪が全く成立しないとは言いにくいでしょう。
なお、これに関連して、最高裁は、第三者を装って預金口座開設を申し込み、結果として預金通帳の交付を受けた事案においては、預金通帳の財産的価値を認めて詐欺罪の成立を肯定し(最決平成14年10月21日)、本人名義であっても他人に譲渡する意図を秘して口座開設をし、預金通帳の交付を受けた事案においても、そのような意図が銀行側に明らかとなっていれば預金通帳を交付することはなかったとして、結果的に詐欺罪の成立を認めています(最判平成19年7月17日)。
この判断が誤発注事例にそのまま当てはまるとは限りませんが、少なくとも当然に成立しないということはなさそうです。
人の親切につけ込むという手口は、悲しいかないつの時代もあり得るもの。古くは財布を落としてしまったから……として交通費の寸借詐欺などが思い出されますね。
そんなことが繰り返されると、本当に困っている人も色眼鏡で見られてしまい、とても生きづらい世の中になりかねません。
裁判所職員がつけているバッヂは三種の神器のひとつである八咫(やた)の鏡がモチーフになっておりますが、その意味合いは、鏡が非常に清らかで、はっきりと曇りなく真実を映し出すことに由来するそうです。
情けは人のためならず、いつも心置きなく他人に親切でいられるように、ひとりひとりが心の中に真実を映し出す鏡を持っていたいものですね。
*著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
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*まさよ / PIXTA(ピクスタ)
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