最近、銀座の整体院の院長や近畿大学の学生が「準強制わいせつ」という罪の容疑で逮捕されたというニュースを耳にしました。「強制わいせつじゃなくて、“準”強制わいせつってどういうこと?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
これらのニュースに何か共通点があるのか考えてみても、それぞれの内容や状況が大きく異なっており、なぜ同じ罪状となったのかわからない方も多かったと思います。
ですので、今回は“準”強制わいせつがどういったものか、強制わいせつとの違いにも触れながら解説していきたいと思います。
■準強制わいせつ罪とは
準強制わいせつ罪とは、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした」場合に適用される罪です(刑法第178条1項)。
強制わいせつ罪が、「暴行」や「脅迫」を手段とした場合であるのに対し、準強制わいせつ罪は、それ以外の抵抗できない状況を利用したり、そういう状況を作り上げてわいせつな行為をした場合に適用されるものです。
分かりやすく表現するなら、強制わいせつ罪が強引な手法であるのに対して、準強制わいせつ罪は卑怯な手法でわいせつ行為をした場合とイメージしていただくと良いと思います。
例えば、冒頭の整体院の事例の場合、整体院に施術しに来たお客さんに対して、骨盤矯正の施術であると誤信させて女性の下着の中に手を入れたということであれば、抵抗できない状態、つまり「抗拒不能にさせて」いるので、準強制わいせつ罪が適用されることになります。
また、近畿大学の学生が逮捕された例のように、強いお酒で酩酊させてわいせつなことをした場合は、「心神喪失に乗じ」たか、「心身を喪失させた」という要件に該当するので、準強制わいせつ罪が適用されます。
過去に、柔道の元金メダリストが教え子の酩酊状態に乗じて姦淫したという事件で準強姦罪という罪に問われたケースがありますが、これも同様の例といえます。わいせつな行為にとどまらず姦淫に至れば、準強姦罪という罪になります。
■加害者とどれくらい関与していたら共犯となるのか
近畿大学の学生が逮捕されたケースでは、パーティ会場として使われていたお店の経営者も逮捕されたと報道されていました。経営者がどの程度犯行に協力していたのかは明らかではありませんが、犯行場所を提供するという行為が、実際にわいせつな行為をした人と共犯となるケースは一般論としてあり得ます。
関与の深さにもよりますが、関与が浅ければ「幇助」、深い場合は「共同正犯」として実際にわいせつな行為をした人と同等の責任を負う場合も有り得ます。この線引きは非常に難しいものがあり、一言で正確に表現することはできません。
ただ、あえて表現するなら、「罪を犯すということにつきお互い意思連絡があり、共犯者も自分の犯罪として実現する意思がある」という場合には、お店の経営者についても正犯者として重く処罰されるといえます。例えば、打ち合わせなどをして女性にだけアルコール度数の高いお酒を出すように仕向けて、わいせつ行為をされる様を面白がってみていたような場合は正犯として処罰される可能性があります。
逆に、打ち合わせなど何もないにもかかわらず、大学生がしようとしていることを察して女性に強いお酒を提供して人を近づけないようにしていたなど、ひそかに協力していたような場合は幇助にとどまるといえます。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活6年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)
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