日本の伝統的な雇用制度として機能していた終身雇用制度が崩れ始め、雇用の流動化が起きています。こうした動向は、現政府も後押ししていると考えられ、優秀な人材の確保のために日本企業においても、ヘッドハンティングを含め様々な方策が取り入れ始められています。
そこで問題となってくるのが、ライバル企業への転職です。同業他社への転職は、前職で知り得た会社の内部情報や技術リソースが漏れる可能性もあり、ヘッドハンティングが一般的な欧米では損害賠償請求はされるケースもあるそうです。
こうしたライバル会社への転職に関する問題について、企業法務に詳しい三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお話を伺ってみました。
*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
■就業規則をチェックした上で転職を
日本でもヘッドハンティングが当たり前のように行われるようになってくると、当然ライバル企業への転職によって損害賠償請求をされるような事例も増えてくると思います。そうした事態をさけるためのポイントを確認しておきましょう。
「労働者が在職中に競業行為を行った場合、就業規則に従い懲戒処分や損害賠償請求を受ける可能性があります。退職後もライバル会社への転職という『競業』に当たり得る行為をした場合は損害賠償請求を受ける可能性はあります。
ただし、退職後の労働者側には職業選択の自由がありますので、使用者側の損害賠償請求が認められるかどうかは以下のポイントを確認する必要が有ります。
◎就業規則に同業他社への転職を禁ずる条項があるか
◎当該条項は合理的か(競業を禁止する必要性、禁止される業務・期間・地域の限定の有無、代償措置の有無など)
◎当該労働者に適用することは適当か(背信性の程度など)
損害賠償請求が妥当かどうかはケースバイケースで、これらのポイントに照らし合せて、個別に判断されることとなります。」(伊東弁護士)
終身雇用制度が崩壊しつつあるということは、それとセットになっている新卒一括採用も同様に崩壊する可能性が高いと考えられます。今後は、人材育成に十分なコストをかけられなくなってくると思いますので、企業はスキルや専門知識を有する即戦力の人材を獲得すべく、採用制度を整えていくでしょう。こうした社会動向の中で、同業他社への転職を禁じる就業規則を設けることは、企業の重要なリスクマネジメントになってくると考えられます。
従って、採用される側も、転職の時点ではなく、その企業に就職する際に転職することも前提として就業規則を確認しておくといったことが大切になってくるでしょう。
*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)
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