「遺産相続」に関するトラブルが起こる原因として、過去の相談事例などを振り返りますと、経験則的に次の2つのケースに分類される場合が多いです。
①相続対策をそもそもしていないケース
②相続対策が不十分だったケース
最近は、相続トラブルを避けるため、相続させる側であれば遺言書の作成、相続する側(配偶者、子ども、兄弟など)であれば遺産となり得る財産の把握などの対策をしている方が増えているため、突然の病気や急激に認知症が進行してしまった場合を除き、上記①のケースは減ってきたように感じています。
そこで、今回は、主に上記②のケースを念頭に、相続トラブルを避けるために相続させる側が行っておいた方が良い3点について解説していきたいと思います。
■相続させる側の注意事項
⑴遺産の明記や付言事項の活用など、相続する人たちへの配慮をする
いくら仲が良くとも、配偶者や子どもたちが自分の遺産を全て把握していることはかなり珍しいです。公平・平等に分けさせるつもりであっても、遺産すべてについて記載がなければ漏れのあった遺産については遺産分割協議をしなければなりませんので、相続人たち(相続する側の人たち)の間でもめごとが生じる可能性があります。遺言を作成する場合には、遺産をもれなく記載しましょう。
また、ご本人は公平・平等に分けたつもりであっても、相続する側からしたら不公平に感じてしまうことがあり得ます。そこで、当該財産を相続させた理由や家族への思いを「付言事項」として記載することによって、相続人間の不公平感が緩和させることができましょう。
⑵遺言を残すだけではできないことは何かを把握しておく
たとえば、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分、つまり、財産を最低限相続できる権利があり、遺留分を侵害する遺言は遺留分減殺請求を行うことができるというのは有名だと思います。
相続させる側は、自分の判断で遺留分を侵害しない程度に多めに相続させる人を決めがちです。しかし、遺産に不動産などの評価額が問題になる財産が含まれていると、不公平感を抱いた相続人から遺留分の侵害を主張される可能性が高くなります。つまり、遺留分を侵害しない(つもりの)遺言だからといってトラブルを完全に予防できるわけではありません。
また、付言事項として、少し多めに相続させた相続人に希望通りの葬儀や埋葬をしてもらおうと思ったとしても、付言事項には法的効力がありませんので、結局、遺産を多くもらった相続人が付言事項を守らなかったためにトラブルとなるケースもあります。
遺言書の作成にあたっては、事前に弁護士に希望を伝え、できることとできないことを分かっておく必要があります。
⑶相続税対策で失敗しないこと
相続税対策のために現金を少なくしておこうとして、高額の生命保険に入ったり、賃貸アパート経営を始めたりする方がいらっしゃいます。
しかし、そもそも不動産の相続はもめる原因のトップのほうに入る上、生命保険や賃貸アパート経営による出費や負債を考慮すると相続税の減少分よりも遺産が減るという可能性もあります。
いざ相続となった際、もっと遺産があると思っていた(!?)お子さんたちが目減りした遺産を巡ってトラブルとなる可能性があります。相続税対策を行う場合には、税理士さんにも相談しておいたほうがいいでしょう。
感覚としては、両親と子どもの仲が良いご家族のほうが、そうでないご家族よりも相続人間でもめることや、相続に関して予期せぬ問題が生じる可能性が少ないです。
月並みな話ではありますが、相続対策は弁護士や税理士に相談してから行うこと、残された家族を大事に思う心をもって普段から生活することが、相続トラブルを避ける一番の方法だと思います。
……なお、私の知っている弁護士のように、「子孫に美田を残さず」として遺産を残さないこと(及び相続人にもそれを伝えておくこと)も相続トラブルを避ける方法のひとつかもしれません。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)
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