先日沖縄の梅雨明けが発表され、本州も徐々に夏本番に向かっていますが、夏といえば、花火や海水浴など、アウトドアレジャーが盛んになる一方、多くの危険もはらんでいます。
たとえば2014年には、兵庫県赤穂市でBBQ後の炭を雑木林に捨てたところ燃え広がり、東京ドーム14個分の山林を焼き尽くしたというニュースが話題になりました。
BBQをしていた会社員の男性は森林法違反で逮捕されたということですが、山が燃えた事によって発生した損害などの請求は男性に行くのでしょうか? 例えば7時間以上にわたる高速道路の通行止めでは、運送会社などが大きな損害を受けた可能性があります。
実際、失火による責任はどこまで追求されるのでしょうか? 今回はこの点について解説します。
●山火事で焼けた山林などは補償されるのか
今回、男性は故意に(わざと)山火事を発生させようとして炭をばらまいたわけではありませんし、炭を捨てた雑木林を賃借していたわけではないでしょうから、失火責任法という法律が適用されることになります。
本来、不注意で人の生命や財産に損害を与えた場合は、損害賠償義務を負うことになりますが、失火責任法は、木造家屋の多い日本においては延焼による損害が無限定に広がる恐れがあることから、不注意で火事を起こした人に重大な過失がある場合にのみ損害賠償義務を負わせることにしています。
したがって、男性に重大な過失がなければ、男性に対し、山火事で焼けた山林、電線や鉄塔の修理・建造費用、道路の通行止めにより生じた減収分などの損害賠償請求ができないということになります。
なお、消防の出動費用や水道代は自治体負担となりますので、男性に重大な過失があった場合でも損害賠償を求められることはないでしょう。
●男性に「重大な過失」があったといえるか
何が重大な過失に当たるかということについては、裁判例では「通常要求される程度の注意すらしないでも、極めて容易に結果を予見できたにもかかわらず、これを漫然と見すごしたような場合」とされています。
このように、重大な過失の判断基準は抽象的ですので、失火した人の属性や周囲の状況など、事件ごとの具体的状況に応じて重大な過失があったか否かが判断されます。
重大な過失が認定された裁判例は、
(1)わらが散乱している倉庫内で吸殻を捨てたために火災が発生した場合、
(2)石油ストーブに給油する際に火を消さずに給油したため、こぼれた石油に着火して火災が発生した場合、
(3)ガスコンロにてんぷら油の入った鍋をかけ、中火程度にしたまま台所を離れたため、過熱されたてんぷら油に引火して火災が発生した場合、
(4)寝たばこが危険であることを十分認識していながら、何ら対応策を講じず漫然と喫煙を続けて火災を起こした場合
などがあります。
今回のケースでは、男性は炭の消火を確認しないまま雑木林にばらまいてしまったようですので、その他の具体的状況によるとはいえ、重大な過失があったと認定される可能性が相当程度あるといえます。
炭火は消えにくいので、地面に埋めたとしても火事の危険があります。
夏のレジャーの楽しい思い出を台無しにしないように、みなさんは今年も火元の取扱いには十分気を付けましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)
* Shebeko / PIXTA(ピクスタ)