一般に報道では、介護施設の職員から入居者高齢者に対する虐待・暴行がよく報道されがちですが、介護の現場で働く方からは、実際には体力十分な高齢入居者から職員への暴行・嫌がらせといった事態も中にはあるようです。
施設側から入居者への虐待が許されないことは言うまでもありませんが、反対に、入居者だからといって、介護サービスを提供する職員に何をしても許されるわけでもありません。
通常は、介護施設の過酷な現場で働く方は、使命感と業務の性質上、多少のことには我慢しているのが実情ですが、度が過ぎれば、入居者側から介護施設職員に対する不法行為その他の犯罪になるになるケースもあり得ます。
■刑事・民事ともに責任が発生する
例えば、入居者が職員を直接殴ったり暴行を加えることはもちろんのこと、物を投げつける、ボールペンを突き指すといった行為も、有形力の行使として、刑法上の暴行罪に該当します。
重度の認知症が進んでいる場合には、刑事責任能力が否定される可能性もありますが、その場合でも傷害結果が重く、被害届が出れば、逮捕・勾留されることもあります。
当然ですが、高齢であることだけでは、刑事責任能力は否定されませんので、高齢者であっても、職員への暴力・暴行行為は犯罪が成立します。
■セクハラもNG
入居者から職員への暴行は、刑事上の責任に加えて、民事上の不法行為として賠償責任も負います。
さらに、暴行以外にも、施設職員へのセクハラも、民事上の不法行為に該当し、慰謝料請求の対象となります。
さらに、セクハラの内容次第では、民事責任にとどまらず、強制わいせつ罪が成立し、6か月以上10年以下の懲役という重い処罰が待ち受けています。
介護施設で働く職員の方の多くは、熱意をもって取り組んでおり、多少のことには目をつぶって我慢しているのか、入居者から問題行動を受けたという被害の相談は、数としてはそれほど多くありません。
それでも、ただでさえ過酷な労働環境の介護現場がこれ以上疲弊しないよう、今後は入居者家族も含めた社会全体で、職員側に被害が出ないよう、対策を講じていくことも必要かもしれません。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)