最近、電気を盗んだ女性が逮捕されたというニュースがありました。
財布を盗む、宝石を盗むとは違い、電気とはご存知のとおり形として存在しないもの、つまり無体物です。よくよく考えると、無体物を盗むという行為が罰せられるのはおかしな話のような気がしてきます。
では、なぜ無体物でありながら電気だけ窃盗罪の対象になるのか等解説していきたいと思います。
●電気をカツアゲしたら恐喝罪になる
有名な話ですが、窃盗罪との関係では電気は物とされており、他人が管理している電気を勝手に使うと窃盗罪が成立します。
なお、窃盗罪のほか、強盗罪、詐欺罪、背任罪、恐喝罪との関係でも電気は物とされていますので、電気をカツアゲしたら恐喝罪が成立します。
他方で、横領罪、盗品譲受等の罪、器物損壊罪などとの関係では電気は物ではないとされており、他人が盗んだ電気を買っても盗品譲受罪は成立しません。
●電気のほかに無体物で刑法上「物」と扱われるものはあるか
電気のほかの無体物、たとえば熱、蒸気、冷気などは窃盗罪との関係で「物」とはされていません。したがって、他人が管理するボイラーの熱エネルギーを使って暖を取ったり電気に変換したりしても、「熱窃盗罪」は成立しません。
●なぜ電気だけ特別に「物」とされるのか
数ある無体物の中でも電気は財産的価値が高く、エネルギーとして多く利用され、また、蓄電も可能であるため、社会的に電気は物と扱うのが妥当だと考えられたのだといえます。
今後、水素自動車が普及した場合には、もしかしたら水素も「財物とみなす」という規定が刑法に定められることがあるかもしれません。
●お店のコンセントを勝手に使ったらどうなる?
たとえば、カフェのPC利用席や新幹線の座席にあるコンセントなど、明示的に自由につかってよいと承諾しているものであれば、お店や会社に断りなく使っても窃盗罪は成立しません。
したがて、同じカフェでもスタッフルームにあるコンセントや、新幹線の保守点検・掃除用のコンセントを用いた場合には、窃盗罪が成立します。
今回のニュースのように、人の家のコンセントを勝手に使わないことは当たり前ですが、明示的に使用が許されていないコンセントを勝手に使うと、被害金額が1円単位でも窃盗罪で逮捕される可能性がありますので気を付けましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)